WEB エッセイ/レポート

02 カ 中村剛士

 10月4日より東京・丸の内の三菱一号館美術館で始まった「三菱一号館美術館コレクション選2013」展。その前日にブログ及びTwitter、Facebookを駆使し積極的に情報を発信している人、約40名に集まってもらい「Web特別内覧会(鑑賞会)」(※1)がオープンに先立ち催された。

 今回、三菱一号館美術館が開催した「web特別内覧会(鑑賞会)」は、通常展覧会オープン前にマスコミ関係者や美術ライターらを対象とした「プレス内覧会」及び、美術関係者や所蔵者を招待する「一般内覧会」に引き続き“第三の内覧会”として行われた。アートを生業としている方以外で、美術に興味関心を持つ感度の高い方を招き、こうした会を催すのには大きな意義があると思われる。

 2009年の『美連協ニュース』で、美術館自身がブログやTwitterで情報発信をしていくことの重要性を書いてから約5年が経過した。当時より益々それらの重要性・影響力が増してきている状況は、ここであらためて説明する必要もない。各美術館・博物館及び展覧会主催者はぞれぞれの独自ルールに基づきTwitter、Facebook、ブログで情報を発信しており、それは既に日常化している「風景」のひとつとなっている。

 確かに、テレビや新聞・雑誌といった所謂既存のマスメディアや交通広告の影響力は依然として大きいものがあるが、Webも無視できないどころか積極的に活用していかねばならぬ時代に来ていることは、周知の事実でもある。

 大手広告代理店の調査によると、どんな情報を元にアクションを起こすか(この場合展覧会へ行くか)といった質問に対し既存のマスメディアに加え、しっかりとTwitter、Facebook、ブログなどもまだまだ決して数は多くはないもののカウントされている。数年前では見られなかった現象である。既に黎明期は過ぎ、第二、第三段階へ至っていることは間違いなく、こうした観点からも最初に紹介した「web特別内覧会」を開催する意義は大きく、直情径行で無責任に批判する一部の心ない人を除き大変好評を得ている。

 そもそもWeb(ネット)と美術は、他の芸術に比べ非常に親和性の高いものと言える。難解な解釈や評論といった文字情報よりも、一枚の絵や写真(画像)が人々に与える影響は計り知れぬものがある。ネットからブレイクした代表例として、京都国立博物館で2000年に開催された「若冲展」がしばしばあげられる。これといった大きなスポンサーも付かない館の自主企画展にも関わらず予想の倍以上の9万人も動員したことでも大きな注目を集め、その後の若冲ブームの火付け役となった展覧会であった。これについて「伊藤若冲の作品はパソコンの画面に映える絵でしかも緻密に描いているので拡大しても鑑賞に堪える。」と美術史家の山下裕二氏は「若冲展」の成功の一端を考察されている。もしTwitterやFacebookがこれだけ普及した現在であれば、更にどれだけの人が京都まで江戸時代の絵師の絵を観るために足を運んだか想像に難くない。

 さて、「Web特別内覧会」はいつ頃から開催されるようになったか。記憶が正しければ今から6年前の2007年、京都・相国寺 承天閣美術館で行われた「若冲展インターネット先行プレビュー」まで遡ることが出来る。『釈迦三尊像』と、かつて相国寺にあった『動植綵絵』全30幅が120年ぶりの再会を果たすとあって大きな話題となり、遠方からはるばる観に行かれた方も多かった展覧会だ。(これまた京都での「若冲展」というのも何かの不思議なえにしを感じさせる。)

 ここ数年自分自身も美術館・博物館や展覧会主催者のご協力を得て「Web特別内覧会」を実施するようになったが、その目的は至ってシンプルである。それは「もっと多くの人たちに展覧会に足を運んでもらいたい。」というその一言に尽きる。自分がブログを毎日更新しているのも自身の鑑賞記録的(ログ)な意味合いもあるが、半分以上はこうした思いからに他ならない。時折「あなたはブログで良い事しか書いていない」との指摘を受けるが、このような主旨の元に書いている以上何もわざわざマイナス面を論う必要はない。その展覧会のプラス面を見つけ紹介するために毎日限られた時間の中で駄文を連ねている。人と接する際もそうだが、まずは、その人の良い点を探し讃えてこそ良きコミュニケーションが生まれるものだ。ひとつの展覧会を作り上げるまでに多くの人が携わり額に汗していることを思えば、どうして無遠慮にマイナス面を論うことができようか。

 毎日のようにクラシック・コンサートからオペラ、歌舞伎等ありとあらゆるエンターテインメトが催されている中で、展覧会鑑賞は時間の制約を受けず、鑑賞者が受身ではなく主体的に接することが可能な自由度の高いものである。何よりも知的好奇心をかき立て、一度虜になったが最後、日本・西洋美術から陶芸、写真、そして建築まで、未体験の楽しさが大きな両翼を拡げて待ち構えている。それは仕事や日常生活では決して味わえないものであり、人間性を大きく高めてくれる存在でもある。

 そんな魅力を湛えた展覧会も、分母の大きい映画やテーマパークと比べるまでなく、まだまだ一般の方にとっては気軽に出かけるスポットではない。未だに文芸批評としての展覧会レビューがほとんど見られないのも圧倒的な分母不足に帰せられるところが大きいと思う(文芸時評としての展覧会評を発表出来る場や企画は別に考えている)。

 まずは、展覧会に今より少しでも多くの方に足を運んでもらえるよう、今後も時代の要請に合わせスタイルを変えながら、Webを通しその溢れんばかりの魅力を発信して行きたい。展覧会と皆さんを繋げる橋渡し役となれるよう努めることが出来れば、一美術ファンとしてこれ以上の喜びはない。

※1:「Web特別内覧会」の呼称は固定されたものではなく「ブロガー内覧会」「夜間特別鑑賞会」など様々な表現が存在する。

中村 剛士(なかむら・たけし)

Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を執筆。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する有名美術ブロガー。単行本『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)の編集・執筆。朝日マリオン・コム「ぶらり、ミュージアム」、小学館『日本美術全集』出前ブログにコラムを連載中。
http://bluediary2.jugem.jp/



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