
松平敬©Alain Taquet
松平敬
私が《オレステイア》のバリトン・ソロをはじめて歌ったのは、2003年大阪での完全版による日本初演(演奏会形式/演奏:next mushroom promotion、指揮:川島素晴)においてである。通常のバリトンの唱法とファルセットとの頻繁な歌い分けが要求される、狂気に満ちたこのソロ・パートは、歌唱技術と体力の限界に挑戦する過酷なものであった。そして、その演奏の成功をきっかけに、私は現代音楽を中心に演奏活動を行うこととなった。
あれから9年、再び《オレステイア》を歌うこととなった。そして、演出を担当する「ラ・フラ・デルス・バウス」の名前を聞き、ほとんど宿命的なものを感じた。私が敬愛し、直接教えも受けたシュトックハウゼンの、オペラ《光の日曜日》の世界初演を、昨年ケルンへ聴きにいったのだが、その演出もラ・フラ・デルス・バウスであった。客席をも含む劇場空間全体を、火、水、映像など、洪水のような情報量で埋めつくす衝撃的な演出に打ちのめされた直後に、偶然にも本公演の出演依頼が舞い込んだのだ。
作品、演出、それぞれの強烈なオーラがぶつかり合う舞台で、一体どんな化学反応が起こるのか、今から楽しみだ。
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