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2012年12月12日

公益財団法人 サントリー生命科学財団

世界初・膜タンパク質挿入に関与する新たな糖脂質の構造を解明


 公益財団法人 サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所と岩手大学農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センターの共同研究グループは、細胞膜に膜タンパク質を挿入する過程において、酵素と類似した機能を持つ糖脂質※1MPIase(Membrane Protein Integrase) を発見し、今回その化学構造を明らかにしました。この結果は2012年12月11日(英国時間)にオンライン限定の学際的ジャーナルNature Communicationsで公開されました。
 なお、今回の研究結果をうけて、同研究グループでは、非タンパク質性であるにもかかわらず酵素と類似した機能を持つ糖脂質として、glycolipozyme (糖脂質酵素)という新しい概念を提唱しました。

MPIase is a glycolipozyme essential for membrane protein integration
Nature Communications
 DOI: 10.1038/ncomms2267 (2012)

 西山賢一1、前田将秀2、柳澤佳代1、永瀬良平2、小村啓2、岩下孝2、山垣亮2、楠本正一2、徳田元3、島本啓子2
 1 岩手大学農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センター
 2 公益財団法人 サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所
 3 盛岡大学 栄養科学部 栄養科学科

<研究の背景>

   生命の基本単位であるすべての細胞は細胞膜に包まれており、細胞膜には膜タンパク質が多く埋め込まれています。この膜タンパク質は、細胞の内外で物質や情報のやりとりをするために重要な働きをしています。多くの薬剤の作用対象にもなっており、創薬研究においても重要なものとされていますが、構造や機能については十分に解明されていませんでした。
岩手大学農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センターでは、大腸菌の細胞膜に膜タンパク質を挿入する過程の研究において、Secトランスロコン※2などの酵素の有無に関わらず、細胞膜から抽出した成分が膜挿入に関与していることを発見し、この成分をMPIase(Membrane Protein Integrase)と名づけました。(Biochem. Biophys. Res. Commun. 394, 733-736, 2010)
今回は、このMPIaseの構造を解明するため、共同研究を行いました。
※1 糖脂質:脂質(アルコールと脂肪酸がエステル結合したもの)と糖が結合したもの。
※2 トランスロコン: 細胞膜上にある、タンパク質が組み合わさってできた酵素。大きなタンパク質を細胞膜へ挿入・透過する際に重要な役割を果たす成分。

<研究の内容>

   大腸菌の培養液100Lから分離・精製を繰り返すことにより、20mg程度の純粋なMPIaseを取り出すことができました。さらに、最新の質量分析(MS)や核磁気共鳴(NMR)による構造解析を進め、その化学構造を明らかにすることに成功しました。
その結果、MPIaseはタンパク質の構造を持っておらず、3種のアミノ糖から成るユニットが10回程度繰返す糖鎖部とジアシルグリセロールがピロリン酸を介して結合した、これまでに知られていなかった新しい糖脂質であることが明らかになりました(図1)。

(図1)

   また、MPIaseを分解し、どの部分が膜挿入活性に深く関わっているかを調べたところ、ジアシルグリセロールとピロリン酸を取り除いて糖鎖だけにした構造に、天然型よりも強い膜タンパク質挿入活性が認められました。このことから、MPIaseの糖鎖部がタンパク質を包み込むことで、凝集してしまうことを防ぎ、膜に入りやすくしていると考えられます。さらに、MPIaseの抗体を使ってMPIaseの働きを抑制した研究も実施し、人工的に作った細胞膜上だけでなく、実際の大腸菌の膜でもMPIaseが機能していることを証明しました。

<考察>

   これまで酵素はタンパク質であると定義されていましたが、MPIaseは非タンパク質性の分子が酵素と類似の働きをする例を示しています。酵素という観点から見直せば、糖鎖や糖脂質の生体内での新たな役割を発見できる可能性があるほか、膜タンパク質の研究にも新たな切り口を与えることができると考えられます。

▼公益財団法人 サントリー生命科学財団について

   当財団は、財団法人 食品化学研究所として故・佐治敬三が1946年に創立しました。2011年にはより学際的に公益に資することを目指し、財団法人から公益財団法人に移行しました。「生物有機化学及びこれに関連する科学の学術振興をもって人類の幸福と繁栄に寄与する」という理念のもと、科学研究の推進を目的とする研究事業、学術研究や科学人材育成の助成を目的とする研究奨励助成事業などを行っています。
ホームページ http://www.sunbor.or.jp/

▽この件に関するお問い合わせ先

   公益財団法人 サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所 企画部
TEL 075−962−1660
サントリーホールディングス株式会社 広報部
(東京)TEL 03−5579−1150  (大阪)TEL 06−6346−0835


以上

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