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「水の知」最前線 Vol.01 地球をめぐる水を追う 「水の循環の科学」東京大学生産技術研究所 沖 大幹 教授

沖 大幹(おき たいかん)教授プロフィール:
1964年生まれ。東京大学工学部土木工学科卒後、同大学院工学系研究科を修了。東京大学生産技術研究所講師、助教授を経て、2006年東京大学生産技術研究所人間・社会系部門教授に就任。2008年には日本学士院学術奨励賞、日本学術振興会賞などを受賞。専門は地球水循環システム。

サントリーと東大が「水」というテーマと共に支えあう意味とは

「水」を研究する私たち学者にとって、サントリーの「水と生きる」という社会との約束には感慨深いものがあります。

以前、サントリーのウイスキー工場を見学したときに、原料にこだわり、手間を惜しまずにウイスキーをつくりあげるその姿勢に脱帽したものです。おそらくサントリーはウイスキーに手をかけるのと同様に、「水」に対しても真摯な姿勢を貫こうとしているのではないかと思いました。

たとえば「森を守り、水を育む活動」。サントリーが非常によく勉強したうえで、間伐して森を整備するという地道な作業などに取り組んでいますよね。その企業姿勢からは、自信を持って「水と生きる」というメッセージを発信していることが伝わってきます。

そんなサントリーと東大がコラボすることで、社会における「水」の啓蒙活動が広く行なえるのではないか─。私は今、そんな期待を抱いているのです。

誰もが安全な水を手に入れられる理想の世界。そんな世界をめざして、サントリーとともに“水の知”を社会に広めていきたいと思っています。

水の危機から世界を救う「水文学」の知恵

みなさんは「水文学(すいもんがく)」という学問をご存じですか?

天文学が天に関する森羅万象を扱う学問であるように、水文学は水にまつわる森羅万象を科学する学問です。水の物理的・化学的側面だけではなく、生物や人間の活動が水に及ぼす作用も含めて研究するのが水文学の特徴で、どちらかというと環境学に近いかもしれません。

昔、理科で習った『水の循環図』を覚えていますか? 大地に雨が降り、川に流れ、海に注ぎ、やがてその海の水も蒸発して雲となり、また雨となって大地をぬらす様子を表した図です。そういった水の循環を研究するのが水文学なのです。

例えば、『水の平均滞留時間』に関して、川のように循環速度がはやいと、水は平均2週間くらいで入れ替わっているのですが、湖のように溜まっている水に対して出入りする水の量が少ない場合には数ヶ月、海になると平均して2~3千年も滞留していることが水文学の研究からわかります。

さらに、こうした推計から、水の滞留時間の少ない川は汚れも目に付きやすく、しかし、対策をとれば比較的早く元のようにきれいに再生することができるのに対し、より滞留時間の長い湖になると汚れに気づくのにも時間がかかり、浄化にはさらに時間や費用がかかることが理解しやすくなると思います。ましてや海、とくに深海ともなると取り返しがつかないほど汚染が進行してからでないと問題が顕在化せず、浄化は非常に難しいことになるだろう、ということになるわけです。

水文学の中でも特に私が興味をもって20年ほど前から取り組んでいるのが地球規模の水循環についての研究です。

ここ10年ほど前から世界の水資源問題が顕著となり、様々な国際会議でその深刻さが訴えられるようになってきました。すると水循環の研究が世界の水の危機を救う上で役に立てるのではないかと、水文学が注目されるようになってきたのです。

それでも、当時は世界の水問題について日本ではほとんど研究されていませんでした。そこで私は水豊かな国・日本だからこそできる貢献もあるのではないかと考えるようになりました。

世界が抱える水の問題は、飲み水や保健衛生に関わるだけではなく食料生産や工業生産、エネルギー問題や生態系など幅広い環境分野と密接に関わっているのです。

私にとって、世界の水の危機に向き合う水文学は社会的な意義にあふれた研究なのです。

Copyright (C) 東京大学総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座
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知らないうちに大量の水を消費している私たち~
『ウォーターフットプリント』

みなさんは『ウォーターフットプリント』という言葉を聞いたことはありますか?

ひとつの製品ができるまでにどのくらいのCO₂を排出しているかを表す『カーボンフットプリント』と同じように、ひとつの製品ができるまでにどのくらいの水を必要としたかを表した使用水量試算のことをウォーターフットプリントと呼ぶのです。

小麦や大豆などの農作物や携帯電話などの工業製品をはじめ、私たちの身の周りの全てのものは生産過程で多くの水を必要としています。

たとえば成育に時間がかかり、多くの穀物を餌とする牛は大量の水を必要とします。ですから、たった一杯の牛丼にも1890リットルもの水が必要なのです。また、携帯電話一台を製造するにも912リットルもの水が使われています。

つまり、私たちは生活していくうえで、知らないうちに大量の水を消費していることになります。

そういうと「牛肉には大量の水が使われているから食べないほうがいいんですね」とおっしゃる方も多いのですが、私が意図しているのはそういうことではありません。大量の水を使っているから食べるな、使うなということではなく、ウォーターフットプリントを考えることで、それらの食品や製品を大事に食べよう、大事に使おうということを伝えるのが真意なのです。

現在、我々はウォーターフットプリントをより正確に割りだすため、推計手法の国際標準化にも取りくんでいます。

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水・地球の未来を予測する

また、我々が構築した『次世代型統合水循環水資源シミュレーション』は雨の量や田畑に流れる水の量など、さまざまな情報から地球規模での水循環をシミュレーションする技術です。これは世界をリードする画期的な技術で、世界各国から実習などのオファーが相次いでいます。このシミュレーション技術からは様々な数値が導き出せます。

これらの技術を使えば、今世紀の間に水の需給が世界規模でどのように変化するのか、温暖化が世界の水需要にどのような影響を与えるかなども予想できます。

今後、雨の降り方は温暖化で変わりますし、人間社会の水需要も人口の増減などにより変化していきます。その両者をかみ合わせると、やがて世界のどの地域でどんなことが起きるのか、被害を生まないためにはどうすればよいのかを推察できるのです。

また人工衛星を利用して行なう研究もあります。地球規模で雨を測り、洪水や渇水がどのくらいの頻度で起きるのか、どうして起きるのかなどを調べるのです。衛星観測や計算機シミュレーションを用いて集めた様々なデータから、この地域では大雨が降るので避難が必要だとか、この地域では雨が少ないのでそろそろ渇水対策をしたほうがよいといったことがわかります。つまり世界中の洪水や渇水の早期警戒警報に役立つ情報を得ることができるのです。

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未来へ向けて、よりよい水環境へ─

幸いなことに、日本は水資源に恵まれた国です。生活に不便を強いるような節水は必要ありませんし、安全な水にもすぐアクセスできます。

そういう点で、水の豊かな国として、そのありがたみを理解した上で、水の情緒的な贅沢を満喫する、日本なりの文化も大切にしたいもの。子どもの水遊びやザッバーンと温泉につかる幸せ─。そんな水の豊かな国に生まれた幸運を、渇水時でなければ多少は享受してもいいのではないでしょうか。

もちろん、ムダ遣いはいけません。最近では節水型のトイレや洗濯機などの技術も格段に進化してきました。おかげで生活の質を落とし、苦しみながら節水に励むのではなく、快適に暮らしながら節水できるようになってきました。だからこそ、水を大事に使いながら、日本らしい水との親しみ方というものがあってもいいと思います。

しかし一方で、世界には水資源に恵まれない国が多いのも事実。世界には安全な水が手に入らないために毎日何時間も水汲みをしなくてはならない人々や、安全でない水を飲まなくては生活できない人々がまだ9億人近くいます。

そうした地域では幼い子どもたちが一日の大半を水汲みに費やし、そのために学校に通えないという厳しい現実があります。

また、安全な水さえあれば命を落とさずに済んだ幼い子どもたちが毎年180万人もいるのです。

さらにちゃんとしたトイレを使えない人は世界には23億人もおり、そのことが結局「飲み水の汚染」という問題につながっているのです。

そんな過酷な現実を世に知らしめるのも、私たちの重要な役割。大学で研究に携わる者にとって学術的な研究を極めていくのも大事なことですが、社会的な役割を担うことも重要です。正しい知識を世に伝えつつ、できるだけよい方向に導く責任が大学教授にはあると思うのです。

地球規模の水循環についての研究そのものは、学術的には地味なものかもしれません。しかしその社会的責任は大きいと思います。

世界中の人々が安全な水にアクセスすることができ、水汲みなどの理不尽でつらい労働から解放されるように、地球の水環境をよりよいものへと導いていければ理想ですね。

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