奥本大三郎の“虫の目エッセイ” 第一弾 丹沢編

六、 シカとイノシシとサル

この山の何処に入っても、下草と言うものが生えていない。シカが食べてしまったのである。日本中でシカが増え、イノシシが増えている。狩猟の好きなフランス人やアメリカ人が知ったら、こんな美味しい獣を放っておくなんて、と呆れるかもしれない。フランスなら、シカもイノシシも重要な狩りの獲物である。冬になるとジビエを売る肉屋の店頭に大きなイノシシがぶら下げられている。

今の日本人は大半が都会に住み、山の中でどんなことが起こっているのか知らないでいる。放置された山の木も水も獣も利用しないでいるのである。それこそもったいない話ではないか。

日本でも山里には猟師がいたし、戦後はアメリカ人の進駐軍に狩猟好きはいたはず。日本の猟師が歳をとり、重い銃を肩に山を歩き回る体力も無くなり、また慈悲心が出て、もう殺生は止めたというのなら、外国からハンターを呼んでツアーを組むとよい。これもいい観光資源になる。もちろんそのためには、獲物の肉が美味しいようにいろいろとコンディションを整えなければならない。ササまで食いつくして飢えているシカや、ゴミ集積所でビニール袋の中身を漁っているイノシシは旨くはないであろう。

不味くても狩る事の好きな外人に狩猟用具も猟犬も貸出し、存分に狩猟を楽しんでもらって旅行社も宿も儲ける。でなければ、と、言うのも恐ろしいが、絶滅したオオカミになるべく近い獣を山に放つ。そうすればサルもわがもの顔に路上に出てこなくなる・・・いや、いや、これ以上は言わない方が身のためというものであろう。

奥本大三郎

ボードレール、ランボーなどの象徴派詩人の研究を専門とするフランス文学者。
埼玉大学教養学部名誉教授、大阪芸術大学文芸学部教授。
幼少より虫を愛好し、日本昆虫協会会長、日本アンリ・ファーブル会理事長、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」館長を務める。1995年「楽しき熱帯」でサントリー学芸賞受賞。サントリー世界愛鳥基金選考委員にも名を連ねる。