奥本大三郎の“虫の目エッセイ” 第一弾 丹沢編

四、 夜間採集の楽しみ

この調査を始めて二年目と三年目に、国民宿舎に泊まって一晩中夜間採集をした。夜、窓を開けて食事をしていると、小型の蛾ばかりでなく、カワゲラやヘビトンボ、ラクダムシ、カマキリモドキなどが来る。そのたびにコップ、杯を持つ手を、毒壜や、捕虫網、ピンセットにもちかえて採集する。カマキリモドキと言うのは、カゲロウの仲間のくせに、前脚がカマキリの鎌のように発達した珍虫で、昼間野外では中々見られない。こんな虫が採れるのも夜間採集なればこそ、である。

  • カマキリモドキ
  • ヤママユガ

宿の庭には許可を得て、夜間採集用の青いランプを煌々と照らし、大きな白いシーツを張って、来た虫がそこに止まるようにしてある。時間帯によって来る虫が違うから面白い。十二時きっかりに、庭の灯りにヤママユが来た。

ヤママユはその年も、その次の年も、決まった時間に飛来した。実にパンクチュアルな蛾である。ヤママユには色彩の変異があるけれど、ここのは濃い茶色で、なかなか美しい。但し、発生の時期がまだ早いのか、我々が採集したのはいずれも雄ばかりであった。

  • ゴホンダイコク
    小型だが角の面白いフン虫。近年シカのフンを食べて殖えているようだ。これは角の発達の悪い小型♂。
  • オニクワガタ
    小型のわりあい珍しいクワガタ。大腮(おおあご)の形が複雑で人気がある。

二〇一二と二〇一三年には、部屋の畳の上で、ゴホンダイコクを採集することが出来て、他のメンバーから羨ましがられた。その名の通り、美しい曲線を描く五本の角を持った糞虫である。小型ながら、黒漆の艶がある。奈良公園などでも採れる甲虫だが、これはやはり、シカがこの付近に出没するからであろう。同じ年にサルの糞から、エンマコガネの仲間が六頭得られた。

奥本大三郎

ボードレール、ランボーなどの象徴派詩人の研究を専門とするフランス文学者。
埼玉大学教養学部名誉教授、大阪芸術大学文芸学部教授。
幼少より虫を愛好し、日本昆虫協会会長、日本アンリ・ファーブル会理事長、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」館長を務める。1995年「楽しき熱帯」でサントリー学芸賞受賞。サントリー世界愛鳥基金選考委員にも名を連ねる。