SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2023年9月29日

#869 小林 航 『深みが出る』

キャリアを積んできたこと、やってきたことに対する自信が溢れる小林選手。新たなシーズンに向けての抱負を聞きました。(取材日:2023年8月上旬)

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◆何が足りないのか

――昨シーズンは後半から復活してきましたが、どんなシーズンでしたか?

一昨年のシーズンの決勝が終わった後に、怪我していたところの手術をしました。当初の予定では、決勝が終わった後に手術をして、リハビリをしてプレシーズンに入っていくというスケジュールで考えていたんですが、状態が思ったよりも悪くて、復帰が遅れてしまいました。実際に復帰できたのが開幕前のワイルドナイツとの練習試合で、スタートがだいぶ遅れてしまったので、シーズンの前半戦は、プレシーズンでのアピールも出来ていませんでしたし、チームからの信頼を勝ち取ることが出来ていなかったので、前半戦は見ている時間の方が多かったですね。

ですが、そこで諦めないというか、やっぱり試合に出ていないと、同じポジションの選手を見て自分と比べてたりしてしまうんですが、それを止めて、自分にフォーカスして、「何が足りないのか」とか「キツイ状況でも身体を張らなきゃ」とか、地道に諦めずに、「練習から激しくやっていこう」と決めて、アピールしていきました。そうしていたら、諦めずに練習から身体を張り続けているところを評価してもらって、後半戦になってからチャンスをもらうことが出来ました。

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――開幕前の埼玉ワイルドナイツ戦は、まだまだという感じだったんですか?

そうですね。20分弱の出場時間でしたが、ゲームフィットネスが無くて、それだけでバテバテでした(笑)。とてもじゃないですが、開幕に出られるようなコンディションではありませんでした。ただ、そこでシーズンが終わった訳ではないので、ここから試合に出られるフィットネスをつけられればと考えていました。

――ゲームフィットネスをつけるトレーニングは難しいものではないんですか?

難しかったですが、チームでシーズン中も練習試合を行っていたので、その試合をしながら自分のコンディションを確認していました。それで足りなければ、練習後などにS&Cコーチたちに手伝ってもらって、個人でフィットネスを見てもらったりしていました。

――そのくらい取り組むのは初めてでしたか?

いや、初めてではありませんが、昨シーズンは意識的にはやっていました。

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◆めちゃくちゃフィジカルに

――昨シーズンの第9節から出場しましたが、その辺りからは行けるという手応えを感じていたんですか?

そうですね。例えば、練習でのモールのゲームメンバーとのやり合いとか、ゲーム形式の練習などでも、めちゃくちゃフィジカルにやっていました。そこで自信がついていて、「これでメンバーに選ばれないことある?」くらい自信を持っていました(笑)。だから「俺はいつでも行けるぞ」という感覚はありましたね。

――第12節ではトライを取って、そこではもう全開という感じだったんでしょうか?

どうですかね(笑)。モチベーションが上がったきっかけがあって、正直、前半戦でも試合に出るチャンスをもらえそうなタイミングがありました。でも、その時にキヨさん(田中監督)に呼ばれて「今回、試合に出そうと思ったけど、サポートになってもらう」と言われました。その時の理由としては、「昨年に比べて成長しているところが伝わってこなかった」というニュアンスを言われたんです。

僕としては怪我をしている期間中に上半身のトレーニングをめちゃくちゃやりましたし、フィジカルアップして戻ったつもりだったんです。そこで自分の評価とスタッフからの評価は違うんだと感じて、めちゃくちゃ悔しい思いをしました。しかもフィジカルのところは意識して取り組んだ部分だったので、そこを否定されたような気持になったんですが、そこで落ち込むんじゃなくて、逆に「じゃあ見せてやる」という気持ちになりました。そこから練習でのフィジカルトレーニングでも、思いっきりバチバチにやるようにしましたし、それを1度だけじゃなく、続けることによって、スタッフからの評価が変わっていったような気がします。

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――それを続けることが出来たのは、その前にレギュラーを取った経験があるからですか?

レギュラーとかではなく、ラグビー選手としてはベテランの域に入ってきていて、今の若手のように後10年もラグビーが続けられるか分かりません。そういう年代になってきて、後悔したくないと思うようになりました。例えば、若手であれば、このまま試合に出られなくても来年があると思えると思いますが、僕の場合は、このまま何もなければ引退という可能性もあります。このままいって後悔したくない、後悔するくらいならやり切りたいという気持ちがあったので、とにかく1日の練習の中で後悔しないように意識してやっていました。

――やっていく中で、確実に上半身はアップしたという感覚があったんですね

そうですね。これまでとは身体の大きさが違うと思います。体重については、S&Cコーチとも話をして、なるべく下げるようにして、筋力をアップさせることを意識して取り組みました。2020年のシーズンの時は120kgくらいあったんですが、昨シーズンは114~115kgくらいでした。体脂肪を落として筋力アップさせていただので、身体が軽く感じて動けていました。

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◆まず脚を起こす

――下半身の状態はどうですか?

下半身のトレーニングのルーティンを作っていて、例えば、寝起きに運動することはキツイと思うので、僕の場合は、まず脚を起こすことから始めます。練習時間よりも早くクラブハウスに来て、脚のリハビリとかウエイトトレーニングなどを、手術をする前よりも念入りにしています。

あと、チームのスケジュール上、クラブハウスに来てウエイトトレーニングをして、1時間くらいミーティングをしてから練習が始まるんですが、僕の脚って、1時間くらい間が空くと寝ちゃうんですよ。ミーティングの間に脚が寝ないように動かすようにしています。ミーティング中にスクワットの動きをすることもありました(笑)。そして、練習が始まる前にも、始まるギリギリまでアジリティのトレーニングをしたり、脚の状態の確認をすることを意識していました。

――脚を起こすためには、どんなことが必要なんですか?

まずは朝、マッサージをして、スクワットやって、ウエイトをつけたりバンドをつけて筋肉が入る感覚を確認するのがルーティンになります。それをやっていくうちに、起きていく感覚を感じます。説明はしづらいんですが、自分の感覚の中で、膝の痛みが和らいでいくような感じです。イメージで言うと、歯車のような感じで、ボロボロの歯車は動かすことが大変ですが、少しずつ動かしていくことでスムーズに動くようになる感覚ですね。

――焦りから歯車を急に回したくはならなかったですか?

そういう気持ちはありました。6月に手術をして12月に復帰で、その間ずっとリハビリでした。リハビリって出口の無いトンネルをずっと歩いているような感覚なんです。毎日ずっと同じメニューを繰り返していて、「早く動かさせてくれよ」という焦りはありました。だから、サイモン(ポープ/ヘッドメディカル)とは何度もケンカをしました(笑)。その度に「今のこの状態だと、やっても悪くなるだけだから、まだこのメニューを続けてもらう」という説明を受けました。

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――その時の希望は何だったんですか?

僕としては「早く走らせてくれ」とか「早くスクラムを組ませてくれ」、「ラインアウト跳ばせてくれ」とかでしたね(笑)。

――今でもそのルーティンは続けているんですか?

今でも続けています。今のオフシーズン中は、とにかく太ももです。毎日下半身のトレーニングをして、膝に負担がかからないように、前ももの筋肉が小さくならないように、ひたすらトレーニングをしています。

――続けていることで、歯車は回りやすくなっているんですね?

そうですね。例えば野球での肘の手術でも復帰1年目はあまり調子が良くないと言われていて、術後1年後から良くなっていくと言われていると思います。僕の場合は手術をして1年が経って、まだシーズンが始まっていないので何とも言えませんが、今とても状態が良いので、良くなってきているのかなと思っています。

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◆ロックとしての評価

――フィジカルが強くなったことは、スキル面での向上にも繋がっていますか?

スキルというよりは、フィジカルが強くなったことで、ロックとしての評価は上がっていくと思います。ロックはフィジカルに強くなければいけないので、例えばセットプレーやラインアウトでのモールディフェンスとか、スクラムでの押しとか、ブレイクダウンの強さとか、そういう部分が強くなっていくので、評価としては上がっていくと思っています。

――今後も怪我とは付き合っていかなければいけませんよね

そうですね。「将来、おじいちゃんとかになって、脚の筋肉を継続してトレーニングしていなかったら歩けなくなるよ」と言われています。引退後もトレーニングは続けなければいけないと思っています。

――辛いリハビリを乗り越えて、今後は選手をどのくらいまでやっていきたいですか?

チームから求められているうちは続けたいと思っています。

――優勝するまでは辞めないなどの気持ちは?

毎年、優勝を目指しているので、優勝するまで辞めないとか言ったら、来年引退することになるかもしれません(笑)。

――目標は何ですか?

まずは自分が出場すること。出場してリーグワンで優勝することが目標です。あとは年齢的にも上の立場なので、サンゴリアスのカルチャーを若手に伝えていきたいと思います。例えば、僕が得意としているセットプレーとか、深みが出るじゃないですけど経験がものを言う世界になってくると思うので、そういうところを若手を中心に教えて行ければと思っています。

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◆角度が大事

――例えば深みが出るところはどこになりますか?

スクラムで言えば、組んでいる人と組んでいる量が違うので、癖とかが分かってくるんです。スクラムではロックの押しも大事なので、そういう部分って若い選手にはなかなか分からない部分でもあります。若い選手のプレーを見ていても、ガムシャラに組んで押している選手が多いと感じます。前の選手がスクラムを組む角度とかによって、自分の角度をどうすればいちばん重さが伝わるかなど、スクラムを組めば組むほど分かってきます。その角度が大事で、人間の背筋を同じように、プロップの人の角度と自分の角度を合わせることで、強く押すことが出来ます。そこが難しい部分でもあります。

――ただ教えただけでは伝わらず、体験しないと分からない部分でもありますね

だから、苦しんでいると思いますよ。そこで、なるべく見て、アドバイスをするようにしています。あと、当たるだけなら誰でも出来るんですが、スクラムは当たった後に動くので、その動きにもついて行かなければいけません。そこでより難しさが出てきます。

――上手く動きについて行くコツは何ですか?

難しい質問ですね(笑)。正直、感覚もありますけど、カッコよく言うと、組んでいくうちに俯瞰して見えるようになります。そういう部分って、その人のセンスもあるかもしれませんが、経験で埋めていけるところだと思います。僕はロックの最年長なので、同じポジションの若い選手たちに教えていければと思っています。

――目標を実現する自信は?

そりゃありますよ(笑)。みんな真面目で、オフシーズンもしっかり取り組んでいる姿を見ているので、競争率は高いと感じています。ただ、負ける気はしないので、僕も頑張っていきたいと思っています。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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