100%決めて、100%返す。
それができるまでは、満足はできない
アジアのチームとの対戦も楽しみ
- — 2020-21シーズンは、ご自身初、チームとしても14年ぶりのVリーグ優勝を果たしました。それから約3ヶ月、また新たなシーズンが始まりましたが、今どんな心境ですか?
昨シーズン優勝できたんですけど、いい意味で忘れることができています。気持ちはもう今シーズンというところにあって、Vリーグ連覇はもちろん、昨シーズン出られなかった天皇杯、黒鷲旗の優勝という目標もある。それに、(Vリーグで優勝したことで)出場権を得た来年のアジアクラブ選手権も個人的にすごく楽しみですし、さらにレベルアップが必要だなと感じながらやっています。
チームのスタートアップミーティングでも、Vリーグ連覇、三冠(Vリーグ、天皇杯、黒鷲旗)、そしてアジアクラブ選手権優勝を目指すという話がありました。僕は海外のクラブチームとの対戦経験がなくて、他のクラブがどんな感じなのかイメージしづらいんですけど、今のままじゃダメだというのはわかる。海外のチームと対戦できることは、新しい刺激やすごくいい経験になると思うので、楽しみです。一段上の目標に向かってやっていきたいですね。
- — 改めて昨シーズンを振り返っていただきます。コロナ禍によりイレギュラーなシーズンで、活動休止期間もあり調整も難しかった中、藤中選手はシーズンを通して安定していましたね。
体育館を使って練習できない時期もあって、体を維持するのは大変でしたが、自分としては(活動再開後も)思ったより動きは悪くなかったので、あまり不安なく試合に臨めていました。個人的に調子の波が少なかったというか、試合の中で立て直せていました。それまでのシーズンだったら、調子が悪い時は1試合丸ごと悪いまま終わっていたんですけど、昨シーズンは1セット悪くても、次のセットには改善できていた。プレーごと、セットごとに切り替えられていたのがよかったなと思います。
- — 昨シーズンのサンバーズは後半勝ち続けて一気に優勝。チームとして勝ち方がわかったというか、勝ち癖がついたと感じるところはありましたか?
勝ち癖と言うとちょっとぼんやりするかもしれませんが、ブレイク(サーブ権がある時に得点する)に強くなったというふうに感じました。マサさん(柳田将洋)たちのサーブのおかげでもあると思うんですけど、チームとしてブロック&ディグで拾ってからの決定力が上がっていて、それがあるから、気持ち的に余裕を持てていました。そういうところが、最後勝ち切れる、ということにつながったかなと思います。
- — 少々相手にリードされても、「どこかでブレイクを重ねて取り返せる」というふうに?
そうですね。どこかにそういう自信があったんじゃないかなと思います。
打ち方の改造で攻撃力アップに成功
- — 藤中選手は入団当初から特に守備面で重要な役割を果たしてきましたが、昨シーズンは攻撃面も、打数や決定力が上がり大きく存在感を増していました。攻撃での活躍の要因はどういうところにあったのでしょうか。
僕はセッターと周りのスパイカーのおかげだと思っています。昨シーズンはマサさんが入って、パイプ攻撃の本数が増えた分、相手のマークがそこに行きがちになっていました。その中でセッターの大宅(真樹)がうまく振ってくれて、いい状態で僕にトスを供給してくれることが多かったんだと思います。
- — 藤中選手のパイプ攻撃も増えましたね。
まあそうですね。今までよりは打ったかなと(笑)。個人的に何か成長したというより、大宅とのコンビがうまくはまったという感じですね。一度噛み合うと、「あ、こんな感じね」とつかめるところがあった。大宅も感覚的に、打たせられるトスというのをわかってくれたのかなと。
- — 藤中選手自身も、昨年の夏場に鳥越準S&Cコーチと一緒にスパイクのフォームを見直したり、いろいろ研究していると話していましたが。
そうですね、基本的な部分ではその効果もあったと思います。夏場は、全体練習が終わってから、鳥越さんにマンツーマンで見てもらっていたので。技術的なことというより、体の使い方の部分ですね。例えばキャッチボールをしたり、野球や他の競技の情報も入れて、こうしたらボールに力が乗るとか、より高くジャンプできるとか、いろいろ考えてくれて、試しました。それが結果につながりましたね。
- — そういうものを取り入れることで、スパイクの打ち方はどう変わったんですか?
ボールへの力のかけ方が変わりました。それまでは腕だけで打っていたイメージだったんですけど、それを体全体で打つというか、肩の前後を入れ替えるというか。最初は左肩が前に出ているのを、右肩を前に入れ替える、という感覚ですね。もともとあまり肩が強くないので、以前は肩が痛い時期もあったんですけど、昨シーズンはずっと痛くなくて、調子がよかったですね。
- — 昨シーズンは、柳田選手が4シーズンぶりにサンバーズに復帰したことも藤中選手にとっていいモチベーションになって、好調につながっているのではないかと、山村宏太監督がリーグ中に話していました。
まあ少なからずそれはあると思います。彼の姿勢というものに、やはり引っ張られるところはありました。そこはなんか相変わらず、という感じではありましたね、いい意味で。そういう影響はありました。
- — 以前一緒にプレーしていたのは新人の頃でしたから、「自分の成長を見せたい」という思いも?
まあそうですね。「変わんねーな」って言われるよりは(笑)。3年間、一応頑張ってたよというのは、まあ、彼に見せるものじゃないですけど、“承認欲求”というか、そういうものもあったのかなーと。
- — いいところを見せたいとか、認めて欲しいと。
そんな、好きな人にアピールするみたいな感覚じゃないですけど(笑)。でも一緒にやっている以上は、僕の場合だったら、例えば「(秦)耕介の方がいい」って思われるより、「謙也と(対角を)組むとやりやすい」って思われたいというのは、別にマサさんに限らずありますから。
「バレー選手になりたい」という子供が増えてほしい
- — 今年はYouTubeを始めたり、コート外でも積極的に発信していますね。
多くの人にバレーボールに興味を持ってもらいたいというのがあって。学校のバレー部も、年々減っていますから。実際、僕が通っていた中学ももうバレー部がないんです。幅広い人に見てもらって、Vリーグの認知度や盛り上がりにもつながればいいなと思っているんですけど、なかなか難しい(苦笑)。何ができるかなと、模索しながらやっているところです。
「バレーボール選手になりたい」という夢を持つ子供が増えて欲しいなと。Vリーガーを目指す人って、少ないですよね。大学まで行って、成り行きで、声をかけられたからなろう、みたいな感じ。子供の頃からVリーガーを目指して、なっている人が何人いるか、というところだと思うので。
- — 藤中選手は子供の頃どうでしたか?
小学生の頃からバレー選手は目指していましたね。早くから。でも、日本代表の試合はテレビでやっているので観るんですけど、Vリーグとなると……。僕、バレー選手を目指していたのに、Vリーグを観た記憶がほとんどないんですよ。でもプロ野球は観に行ったことがある。その逆ってあまりないんですよね。他の競技をやっている人が、バレーを観に行く。そんな感じに憧れます。バレーもそういう競技になって欲しいんです。
- — なるほど。そうした普及にも目を向けながら、藤中選手がこの先、選手としてやり遂げたいこと、目指すところは?
チームとして、昨シーズンリーグ優勝ができたんですけど、個人としてできなかったことに目を向けたら、いっぱいあるわけじゃないですか。スパイクは100%じゃないし、レシーブも100%じゃないし。ということを考えると、たぶん、100%(スパイクを)決めて、100%(サーブレシーブを)返す。まあ、ありえないですけど、それができるまでは、たぶん満足はしないと思います。僕は結構、できなかったことが記憶に残っちゃうので。
- — 確かに、試合後の記者会見などでも、いくらその日のプレーや数字がよくても、いつも納得がいっていない表情ですね。
ハハハ。だからいつも、「いやまだまだです」みたいな感じで言ってしまうんですよね。それが本心なんで。それ(100%)ができない限りは、向上心はなくならないのかなと思うし、もし向上心がなくなったら引退する時だと思いますけど、体が動く限りは、たぶん(100%を)求め続けるのかなと思います。
- — 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
昨シーズンは、コロナ禍の中、応援してくれる方たちにとってもすごく大変なシーズンで、ストレスがかかっていた時期もあったと思います。今シーズンは僕らも皆さんに会場に来てもらうことをすごく楽しみにしているので、見てもらえる状況になった時に、皆さんに楽しんでもらえて、喜んでもらえるようなプレーや結果を出せるように頑張っていきたいなと思っています。今シーズンも応援よろしくお願いします。
10 Outside Hitter 藤中 謙也 プロフィール