
“自分にしかできない仕事”だと思って、
どんな場面でも全力で!
「ちっちゃくてよく跳んだ」高校時代は何度も決勝の舞台を経験
- —先日お子さんが誕生したそうですね。
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はい。ちょうど岡谷市でVC長野トライデンツ戦があった日(11月1日)の朝、電話があって起きたら、「産まれたよー」って。前日に電話した時には、まだ全然そんな気配はないと言っていたのでびっくりしました。
- — お父さんになって、心境に何か変化はありますか?
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新型コロナウイルスの感染防止のためすぐには面会できないので、(取材の時点で)まだ子供に会えていなくて、実感があまり沸いていないんですけど、写真や動画を見て癒されています。もうテレビなんか見なくなって、ずっと子供の動画を見ています(笑)。癒しができたので、気持ち的にリラックスできるというか、ちょっと心に余裕ができるのかなとは思います。

- — 今年は人気漫画「ハイキュー!!」の主人公・日向翔陽に喜入選手が似ているということで、「リアル日向」と話題にもなりました。
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もともと僕らが高校生だった頃に「ハイキュー!!」が始まって、春高バレーの時に、「ハイキュー!!のキャラクターに選手を当てはめると誰だ?」というような雑誌の企画があり、日向に僕を選んでいただいたんです。「ちっちゃくてよく跳ぶ」ってことで。他はほとんど星城高校の選手だったと思うんですけど。それがあってから時々言われるようになりました。今年もアンケートで(日向に当てはまる選手の)1位に選ばれたと聞きました。
たぶん(石川)祐希(ミラノ)のおかげじゃないですかね。祐希たちのいた星城と僕ら大塚の決勝が、身長がでかくて強いチームと、僕らみたいな平均身長が170㎝台の小さい高校の、対照的なチームの戦いだったから、たぶん見てくださっていた人たちの印象に残っているのかなと。
- — 当時は何度も決勝で大塚と星城が対戦していましたね。
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2年の時の国体、春高、3年のインターハイ、国体と、4大会連続決勝で当たって敗れました。国体は清風高校との混合チームでしたけど。3年生の頃は「打倒・星城」というのがすごくありましたね。逆に「星城以外には負けないだろう」という自信もありました。でも3年の最後の春高は「打倒・星城」というのが強すぎて、大会前に練習試合を組んだりハードにやりすぎてしまって、多くの選手が満身創痍の状態で、ベスト8で終わってしまったんですけど(苦笑)

- — 喜入選手がバレーボールを始めたきっかけは?
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親や姉がバレーボールをやっていたことが大きいですね。最初はサッカーがやりたかったんですけど、親に「サッカーやらせてあげる代わりに、バレーボールもやりなさい」って言われて(笑)。もともと自分は体を動かすことやスポーツが好きで、ソフトボールやバドミントン、水泳などいろんなものをかじっていたので、「全然オッケー!」みたいな感じでバレーも始めました。
- — いろいろなスポーツをやった中で、最終的にバレーに絞ったのは?
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小学5年の時に膝を怪我したんですけど、その時にお医者さんに「運動のしすぎや」と言われて(苦笑)。何か一つに絞らないと膝が持ちませんよということで、その時たまたまバレーボールが一番楽しかったので、バレーを選んで、そこからはバレー一筋ですね。
- — 高校時代はまさに「小さくてよく跳ぶ」選手でしたが、ジャンプ力はどうやって身についたんですか?
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僕は高校に入ってからジャンプ力が20㎝ぐらい伸びました。中学の時は最高到達点が317㎝だったのが、高校で337㎝に。全体的な筋力アップができたからだと思います。まず入学前に参加した春休みの練習が大きかった。毎日朝8時から、走り込んだり、ハードルジャンプ、手押し車など、午前中はひたすらトレーニングをやって終わるという感じで、毎日全身筋肉痛でした。体のあちこちに湿布を貼りまくって、同級生と電車の中で「オレ、ここにも貼ってるでー」とか言い合いながら通っていました。
大塚高校のバレー部は器具を使ったトレーニングはしなくて、全部自重でのトレーニングでした。あとはリングジャンプですね。毎日の練習前のウォーミングアップに組み込まれていて、バスケットのリングに5往復して10回跳ぶんですけど、「届いた」、「リングつかめた」、「オレもう両手でつかめるようになったわ!」という感じで、だんだん跳べるようになっていきました。みんなで競い合いながら、楽しんでやっていたのがよかったのかなと思います。
リベロとしての思考回路に切り替えて、ポジションを確立する
- — 早稲田大まではウイングスパイカーとして活躍しましたが、サンバーズにはリベロとして入団。スパイカーに未練はありませんでしたか?
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実は早稲田大にもリベロで行く予定でした。高3の時に膝を怪我したということもありましたし、将来、長くバレーを続けるとしたら、リベロのほうが可能性が広がるなと考えて。大学からVリーグに行った時、自分がスパイカーとしてサイズ的にできるのかと言われたら……やっぱりレフトに入ると、目の前には身長2mぐらいの外国人オポジットがブロックにくるので、お手上げです、となってしまう。それは天皇杯や黒鷲旗でVリーグのチームと対戦した時に感じていましたし。
だからVリーグではリベロで勝負したいなと考えて、大学ではそのために(リベロで)経験を積みたいと思っていました。ただ、アウトサイドの先輩が怪我をしてしまい、サイドをやる人がいなかったので、「お前サイドやってたよな」となって、そこから4年間打つことになりました(笑)

- — サンバーズを選んだのは?
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僕は能勢町の出身で、両親からも「できるだけ大阪に帰ってきて」と言われていましたし、一番最初に声をかけてもらえたのがサンバーズだったので、「お願いします!」と即決でした。大学時代の練習試合でいろんなチームを回らせていただいたんですけど、その時に、サンバーズの雰囲気が「いいなー」と感じていましたし。今でも、(鶴田)大樹さんに声をかけてもらったのを覚えています。試合後、ダウンしている時に呼ばれて、「お前どうするんや?」って気にかけてくださって、「なんて優しいんや!」と思いました(笑)。たぶん同じ境遇ということで気にかけてくださったのかなと。

- — 鶴田選手も大学まではスパイカーでしたからね。
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はい。今は、大樹さんを追い越さないと試合には出られないので、まずは追いつけるように、盗めるところは盗んでいきたいなと。大樹さんとはよく話をさせてもらうんですけど、リベロとしての心得というか、思考回路というか、「こういう考え方もあるよ」というのを聞いて、それが自分の中に少しずつ入ってきています。それを活かして、自分のリベロ像を確立していければと思っています。

- — 鶴田選手から聞いた考え方というのは?
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自分が聞いて一番、「そんな考え方もあるんや!」と思ったのは、「リベロとしての一番は目立たないこと」という考え方ですね。サーブレシーブがうまかったら、相手はリベロのところにはサーブを打ってこないじゃないですか。相手が避けて、打ってこない存在だから、ボールが来ない、だから目立たない。ファインプレーとかもあっていいんですけど、それ以外のところではあまり目立たない。それがいいリベロだという考え方もできるんだなと。大樹さんはそういうことを津曲(勝利)さんから聞いたそうです。
スパイカーをやっていた頃は、「目立ってなんぼ」という感じでした。「相手のエースより自分が決める」だったり、「どんどん持ってこい」とか「自分が決めないと勝てない」とか、試合中そんなことばっかり考えていたので、正反対ですよね。その結果、今苦労しているんですけど(苦笑)
目立たないリベロという理想の像に向かって、今は実力を上げるために練習に取り組んでいます。試合に出るには、サーブレシーブ返球率にしても最低限の数字が、信頼を得るためには必要なので。
逆に、自分のところにボールがこなくなったら、リベロが仕掛けて取りにいくという考え方もありますが、そこは自分の役割をまっとうできた上でのプラスアルファなので、自分がその領域にまでいくのはまだきついなと感じています。
- — 喜入選手の目標とするところは?
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サンバーズのリベロとしてポジションを確立することが最終的な目標です。今シーズンはリリーフサーバーでの出場が多いんですが、自分がチームに必要とされているところで出た時に、結果を残したいと思っているので、自分が出てきたら期待はして欲しいかなと思います。大樹さんも、「お前が出てきたらなんかやってくれそうな気がするわ」と言ってくださるので、それに応えなあかんな、という思いもあります。
- — 喜入選手がリリーフサーバーで登場し、守備でも活躍して得点につなげるというのはセット終盤の見どころの一つですね。
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チームに流れを持ってくるようなプレーができればいいな、というふうには常に思っています。その中でもやっぱりサーブが入らないと話にならないので、マインドの持ち方については、「いいトスを上げて、いいフォームで打つだけ」ということを今は意識しています。マサさん(柳田将洋)に「“無”で打ったほうがいいよ」と言われたので。
- — 「サービスエースを取ってやろう」と考えるとよくない?
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そうですね。「劣勢な場面だからここで1本欲しいな」と欲が出てしまうと……。10月24日の堺ブレイザーズ戦では、「ここでサービスエース取って流れがきたらおいしいな」と攻めていったんですけど、ネットにかかって。次に出た時は、「ミスはまずい」と思って入れにいったらまたネットにかかってしまった。いろんなことを考え出して自分のプレーに集中できていなかったので、「難しいわー」とボソッと言ったら、マサさんが「“無”が一番だよ」と言ってくださったんです。
今までだったら、例えば相手がパナソニックパンサーズだったら、「クビアク(・ミハウ)選手からサービスエース取りたい!」みたいに欲丸出しだったんですけど(笑)。やっぱり安定しないと、監督やスタッフ陣も起用しづらいと思うので、安心して見ていられるようなプレーヤーになっていこうと。今、リリーフサーバーという役割を与えられているからには、自分にしかできない仕事だと思って取り組んでいきたいと思います。
- — 最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
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今シーズンは、開幕戦を見ていただけばわかるように、日本人選手の底上げというところで自信もついてきていますので、今季こそはファンの皆さんと喜びを分かち合えるように、優勝をもぎ取りたいと思います。頑張ります!
