連載企画

Our Passion

-挑戦に懸けるアスリートたちの想いー

編集協力:朝日新聞総合プロデュース室

PASSION FOR CHALLENGE
UP DATE 2018.10.04
#52

「五感であらゆることを敏感に察知して走者をサポート。プレッシャーとともに走る喜びをかみしめる」

陸上競技ガイドランナー

母原 利之選手

サントリー酒類株式会社所属

  • .競技との出会いは?

    5歳のとき親に連れられて、大手町に箱根駅伝を見にいったんです。沿道の歓声を浴びながら走る選手たちを見て、ものすごく格好いいと思いました。それから僕の人生の目標は、〝箱根駅伝に出ること〟になりました。中学、高校は陸上部で活動し、大学は憧れの駅伝選手がいた法政大学に進みました。大学時代もひたすら駅伝の練習に励みましたが、結局、僕自身は箱根駅伝に出場することはできませんでした。でも4年生のとき大学が復路優勝し、その喜びをみんなで分かち合いました。駅伝一筋だった僕の青春に、悔いはありません。

  • .陸上競技のガイドランナーをするようになったきっかけは?

    陸上は大学までで完全燃焼したので、就職してからはパタリと走ることを辞めてしまいました。ただ夜遅くまで働き、大好きな甘いものをよく食べているうちに、体重が20キロ以上も増えてしまいました。健康診断にひっかかり、先輩から〝お前、昔は走っていたんだろ〟と指摘され、もう一度走ってみようかと思い始めました。そして久しぶりに走ってみると、最初はきつかったのですが、走ることの喜びを改めて感じました。その頃、大学の陸上部の同級生がブラインドマラソンのガイドランナーを探していて、声をかけてくれたんです。走る楽しさをみんなに伝えたいとの思いもあり、引き受けることにしました。

  • .ガイドランナーを実際にやってみていかがでしたか?

    最初は甘く考えていて、走力さえあればなんとかなるだろうと思っていました。でも実際にやってみたら全然違う。すごく難しいんです。ランナーは何も見えていないので、競技場に向かう階段やちょっとした段差のことなど、競技以外のことにも気を配る必要があります。走っているときは道路の状況、他の選手との距離、ペース配分やピッチ、息づかいや腕の振り方、顔色など、五感を駆使してあらゆることを敏感に察知しなくてはなりません。それだけに体力の消耗も激しい。そのため余裕をもって走れる走力が必要です。今でもガイドランナーの難しさは日々、痛感しています。また大会当日に自分が体調をくずしたり、調子が悪かったりすれば、選手の成績にも影響を与えてしまいます。そのプレッシャーは大きく、大事な大会の前には眠れないこともあります。それでもともに練習を重ね、苦労をわかちあったランナーと海外の大舞台などで走れる喜びは、とてつもなく大きなものがあります。

  • .現在は、谷口真大選手のガイドランナーを務めていますね。

    大学時代の後輩が谷口選手のガイドをしていて、一緒にやらないかと声をかけてくれたんです。最初に谷口選手の走りを見たときは驚きました。とても目が見えないとは思えないスピードだったからです。ガイドランナーには、ランナー以上の走力が必要です。当時の僕には彼をガイドできる走力がなかったので、練習パートナーはできても大会に出るのは無理だと、最初はお断りしました。それでもガイドの依頼を頂き、そこまで言ってくれるのなら期待に応えなくてはと、走力をあげる練習を重ね、引き受けることにしました。今も走力を維持するためのトレーニングは日々、欠かさず行っています。

  • .今年はインドネシアで開かれるアジアパラ競技大会にも出場しますね。

    6月頃、谷口選手からアジアパラの出場が決まったら、ガイドをお願いしたいと言われてから、体質改善をして体重を4キロ減らしました。アジアパラでは谷口選手は5000mと1500 mを走ります。東京パラリンピックをみすえたとき、谷口選手の持ち味が活かせるトラック競技の方が東京パラリンピックへの出場の可能性が高いからです。また距離が長いマラソンよりも、ペースが圧倒的に速い5000mや1500mの方がガイドランナーの負担が大きく、技術的にも難しいんです。その責任を感じながらも、目標のパラリンピック出場につながるよう、ベストパフォーマンスを発揮できるよう頑張ります。

  • .将来の夢は?

    僕は駅伝や陸上競技によって育てられ、そこから沢山のものをもらいました。自分に子どもが生まれたら、できれば同じような経験をさせてあげたいし、そのためのサポートをしたいです。また今、僕はチャレンジド・スポーツの支援に積極的な企業で働いていて、恵まれた環境で活動できています。その恩返しのためにも、チャレンジド・スポーツの発展のために貢献できるような仕事がしたいとも思っています。

谷口真大選手(写真左側)のガイドランナーとして走る母原利之選手

プロフィール

Profile

母原 利之選手TOSHIYUKI MOHARA

サントリー酒類株式会社所属

  • 1983年10月18日生まれ
  • 法政大学第一中学校・高等学校にて陸上部に所属し、法政大学では陸上部で駅伝出場を目指す。
  • 2006年4月サントリーホールディングス株式会社入社
  • 2014年から視覚障がい者のガイドランナーに取り組み始める。
  • 現在は、谷口真大選手(T11中長距離強化指定選手)のガイドランナーとして、大会に出場している。
  • 主な大会出場実績
    ・2018年4月 World Para Athletics Marathon World Cup(ロンドンマラソン)
    ・2018年10月 アジアパラ競技大会では陸上T11の5000m・1500m種目に出場予定