品質をささえる「匠」たち 第6回

自由

紀村 益男 スピリッツ商品開発部 技術顧問

自由3 自由な発想で、新たなリキュールを創造する

アイデア次第で世界と勝負できる

紀村が開発にたずさわったリキュールで、グローバルな舞台で活躍しているのが『ミドリ』。
「1977年に来日された米国バーテンダー協会の方が、当時販売していた『ヘルメス メロンリキュール』を「こんなに美味しそうな緑色のお酒は初めて」とおっしゃったんです」。そこでアメリカでの販売を目指してこちらをベースに新しいリキュールを開発。

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ただメロンはデリケートで加熱するとウリのような匂いを発してしまうことも。
「私はキュウリが苦手だから、ウリの匂いに敏感。わずかな匂いも嗅ぎ分け、防ぐように対処しました」(苦笑)。
またアメリカではメロンは安く日常の果物のイメージがあることから、名称も『ミドリ』に。アメリカの流行に合わせて、甘さを抑え、フルーティーに仕上げ翌年から輸出。

現在日本のメロンリキュール『ミドリ』は、アメリカをはじめオーストラリア、ヨーロッパ、アジアにと販売を拡大し、グローバルブランドとして展開している。
「何ら制約がないから、アイデアさえあれば世界と対等に戦えるのがリキュールだと確信できた仕事でしたね」。

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ミドリ

美しい緑色とマスクメロン由来のフルーティーでフレッシュな香りのリキュール

新たなトレンドを起こすことも可能

1974年に業界初の缶入りカクテル『ポップカクテル』を誕生させたのも紀村である。
当初は『ジンフィズ』『ジントニック』『ウイスキーコーラ』の3点だったが、『ジンフィズ』に集中したことでヒットした。それまでは、最後にソーダなどで割って仕上げるいわば原液タイプの商品はあったが、ガスを封入した缶入りは珍しかった。 「ちょうど炭酸飲料が伸び始めていた時期でもあり、上司からこのマーケットは大きくなると言われていたことが懐かしく思い出されますね」と紀村。当時カクテルは、バーやクラブなど専門の店舗でしか飲めないというのが常識となっていた。

「瓶や缶に入ったビールや清酒は、その手軽さゆえに家庭や立ち飲み屋などで大活躍。このようにもっと気軽にカクテルを飲んでもらえないものか」と考えたところひらめいたそうである。“冷やして・開けて・すぐ飲める”缶入りカクテルは、家庭に電気冷蔵庫が普及していたことも手伝って、世の中に大歓迎された。
『ポップカクテル』はその後、『ザ・カクテルバー』や缶チューハイへと続き、さらなる広がりが期待されている。

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楽しさと厳しさの両面を持つのが、“自由”

リキュールに全てを捧げたといっていい仕事人生を振り返って紀村は話す。

「キュラソーを改革できたときまず感じたのは、「やった」という喜びよりも、「ようやく目処が立った。でもやれることはまだあるはず」という戒めでした。

何をしても自由と言うのは、やりがいを感じるのと同時に、裏を返せばやり尽くすということは永久にないということ」。
ずっと知的好奇心を持ち続けることで、リキュールを究めてきた紀村。
「実は社史を調べていくとポップカクテルの前に、既に缶入りのハイボールが『トリスウイスタン』という名称で1960年に発売されていたことが分かりました。よくぞその時代にと感動しましたね」。

まさにサントリーの創業時から社員の仕事の原動力となっている言葉“やってみなはれ”を裏付けるエピソード。この綿々と受け継がれてきた自由闊達な風土とチャレンジ精神も、紀村が “自由”のもと重ねてきた「匠」の仕事を支えてきたに違いない。

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トリスウイスタン(左)とポップカクテル(右)

ともに業界の第1号と位置づけられている缶入りハイボールと缶入りカクテル