サントリーグループでは、持続的に事業を行い、価値を創造し続けていくために、気候変動によるリスクや事業への影響を特定し、適切に対応していく必要があると考えています。
サントリーグループは、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を2019年5月に表明しました。
また、2019年7月にはサントリーが今後取り組むべきサステナビリティに関する重要な7つのテーマを設定し、その一つの重要テーマとしてCO2排出削減を掲げています。

「水と生きる」を社会との約束に掲げる我々は、気候変動による水の供給リスクの把握に加え、適切な水マネジメントの下での節水や排水を行うとともに、流域全体への評価を行い、ステークホルダーとともに水のサステナビリティへの取り組みを推進しています。今後は、シナリオ分析をさらに進め、気候変動が事業に与えるリスクや機会について、関連する情報開示の拡充を進めていきます。
1. ガバナンス
グループ全体のリスクマネジメント推進体制を強化するため、2015年4月にグローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)を設置しました。このGRMCのもと、各事業会社にリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを設置しています(例:サントリー食品インターナショナル(株)に「リスクマネジメントコミッティ」を、ビームサントリーに「グローバルリスク&コンプライアンスコミッティ」を、またサントリービール(株)等各事業会社に「リスクマネジメントチーム」を設置)。GRMCは年4回開催し、自社リスクの把握や対策の実行、クライシスマネジメント体制の整備などの活動を行います。気候関連リスクは最重要リスクの1つとしてGRMCで議論され、対応状況をモニタリングしています。
気候変動における機会とサステナビリティ戦略については、グローバルサステナビリティ委員会(GSC)において、サステナビリティビジョンで定めた7つのテーマに関する中長期戦略の議論を行っており、CO2排出削減への取り組みが議論されています。また、各事業においても、より具体的な戦略、取り組みについて議論を行うための組織が設置されています(例:サントリー食品インターナショナル(株)に「サステナビリティ委員会」を、ビームサントリーに「コーポレートレスポンシビリティコミッティ―」を設置)。
GRMCとGSCは常に連携をとっており、重要な意思決定事項については、取締役会でさらなる議論を行います。
体制図

水科学研究所について
「水と生きる」を社会の約束と掲げるサントリーは、私たちの利用する「水」への理解を深め、水に関する取り組みを事業横断ですすめるため、研究・技術開発を進める専門機関として、社内に水科学研究所を設置しています。サントリーのものづくりになくてはならない天然水。私たちは、創業以来、良質の水を求めてきました。水を守り、大切に使い、自然に還すことは、企業としての社会的責任であり、持続可能な社会を実現するために重要なことと考えています。 水科学研究所では、水文学(すいもんがく)を基盤に、水源を育む森と水の研究をはじめ、国内外の水資源の研究、さらには総合酒類食品企業として水における健康や嗜好に関する研究など、「自然界の水」から「生体内での水」まで包括的な理解のための研究と知見の普及を進めています。
研究内容
森と水の科学
サントリーでは、工場で利用する以上の地下水を森で涵養することを目標として、「天然水の森」活動を展開しています。しかしながら、どのような管理方法が涵養力の高い、健全な森につながるかは科学的に解明されていないのが現状です。水科学研究所では、水文学や土壌学、植生学などさまざまな分野の研究者と協力し、環境の異なる森林において、一つ一つ試行錯誤しながら、最適な森の管理方法の確立と科学的検証を行っています。例えば、施業方法と水の動態との関係知るためにヒノキ人工林を強度間伐(本数ベースで50~60%)する実験を行いました。強度間伐により林内雨量の増加、雨が降った直後だけでなく安定して河川の流量が増えることを明らかにしました。また、森の中の湧水や河川水の流量測定と水質分析を行い、いつ頃、どの場所で降った雨がその水となっているのかを知り森林管理に活かす研究や、公開されている地形・地質などの情報に加えて、第三者機関と協働して行う現地調査で得られた知見を元に水動態を可視化するためのシミュレーションモデルを構築し、涵養量を推計する研究を行ってきました。
持続可能な地下水利用
環境に負荷をかけることなく、持続的に地下水を利用するためには、その場所の水循環を詳細に把握することが必要です。水科学研究所では、上述したように、第三者機関と協働して現地調査を行い、湧水の状況や水質の分析結果などと併せて評価し、さらに継続的なモニタリングを続けることで環境影響を確認しております。
世界の水資源
世界には水が不足したり、安全な飲用水を十分に得ることができない国や地域が数多くあります。また、地球規模での気候変動が原因となって農作物へ被害が生じ、植物の生育地域が移動するなど、人々の生活や生産活動に大きな影響が及ぶ可能性があります。サントリーにとって、世界の水問題は決して無関係ではないと考えています。水科学研究所では、水の希少性を考慮した、水利用の環境影響を客観的に評価することができる指標の開発を行ってきました。この指標は、省庁や企業などにおいても環境影響評価に活用されています。さらに世界的水資源リスクの評価手法の開発などを行い、社会への情報発信を進めています。
2. 戦略
サントリーグループでは、気候変動に伴うリスクと機会が自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識の下、シナリオ分析に取り組み、気候変動が事業に与えるリスクや機会の把握及び対応策の実施に努めています。
リスクへの対応としては、水の供給リスクの把握や適切な水マネジメントの実行、流域全体への評価など、特に水のサステナビリティへの取り組みを推進してきました。
機会面では、気候変動対策の適応商品として、環境省が推奨する成分を配合した熱中症対策飲料のポートフォリオを拡充しています。商品展開にあたっては、予防啓発ポスターや啓発リーフレットを全国の小学生に無償提供する熱中症対策の啓発活動と連動させています。
気候変動関連のリスクと機会の評価
気候変動による物理的リスク、移行リスクのうち、2019年度は、物理的リスクから取り組みを進めており、その中でも食品セクターに影響が大きいと言われている水の供給リスクと原材料安定調達について検討を開始しています。
水はサントリーグループにとってもっとも重要な原料であり、かつ、貴重な共有資源であるため、水に関するリスク評価に基づきやグループの事業や地域社会、生態系へのインパクトを把握することは持続的な事業成長のために不可欠です。
そうした考えにもとづき、サントリーグループでは、自社工場※を対象とした水のサステナビリティに関するリスク評価を行いました。
(*サントリーグループ売上高の9割を占める事業会社群が所有する国内生産26工場、海外生産61工場が対象。)
水リスク評価のプロセス
■1次評価―詳細なリスク評価をする拠点の絞り込み(スクリーニング)
1次評価では、工場が使用する水源が①枯渇する可能性および②環境変化によって受ける影響度の二つの観点から、全拠点一律でのリスク評価によるスクリーニングを行いました。
①工場が使用する水源が枯渇する可能性
リスク評価として全世界の拠点を全球レベルで共通に評価できる指標として、World Resources Instituteにより開発されたAqueductのBaseline Water Stressを活用し、全拠点に対して水のサステナビリティに関する評価を実施しました。Baseline Water Stressのスコアが4以上の工場を使用する水源が枯渇する可能性のある水ストレスの高い拠点として評価し、その割合は全体の17%になることがわかりました。
AqueductのBaseline Water Stress指標のスコアで層別

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出典:World Resources Institute(世界資源研究所)「アキダクト・プロジェクト」 をもとに作成

②工場が使用する水源が環境変化によって受ける影響度
さらに、工場で使用する水の水源が自然水(表層水、地下水)あるいは市水かによって、分類を行いました。市水は、現地の水道局を通して供給され、水道利用料を負担して利用しており、一般的にその水源の範囲は広く、より多くの利用者と水資源を共有しています。その管理の主体は水道局になり、現地の水道局と連携しながら、地域社会との共生をはかっていく必要があります。
一方で、自然水(表層水、地下水)を利用している場合、市水と比べて、水源の範囲は狭く、気候変動をはじめとする環境変化の影響をより強く受けることと、その管理主体がサントリーになることから、自然水(表層水、地下水)を利用している工場における取り組みから優先的に進める必要があります。
■2次評価―拠点ごとの個別評価
1次評価で絞り込まれた拠点を対象に、2次評価では、①水マネジメント(取水)と②水マネジメント(節水)の整備への取り組みの二つの観点から、拠点ごとの個別評価を行いました。各工場により、水に関連するその地域の状況は異なるため、現地の実情にあわせた対応を検討する必要があります。
水マネジメント
貴重な共有資源である水を利用する責任を果たすため、水を適切に扱う必要があることから、以下の二点について評価を行います。
①水マネジメント(取水)
水を適切に利用するための活動が推進されていること(水を汲みすぎない)
※市水を利用している工場については、現地水道局が全体管理を行っているため評価対象とはしない
②水マネジメント(節水)
水が適切に利用されていることが証明できること(水を無駄に使わない)
※市水を利用している工場については、現地水道局が全体管理を行っているため評価対象とはしない

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●取水が地域環境に影響を与えていないことをデータで示すことができる。
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●そのために必要なデータが蓄積できている。
取水データを管理していない | → | ![]() |
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取水データの管理が不十分 | → | ![]() |
取水データを管理し、適切な取水を行っている | → | ![]() |

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●水を効率的に使うための目標が設定されている。
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●目標達成のための活動が進められている。
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●目標が達成されている。
水原単位の中期目標が無い | → | ![]() |
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水原単位の短期目標が無い、達成されていない | → | ![]() |
水原単位目標が達成されている | → | ![]() |
2次評価の結果
2019年1月での調査では2次評価を実施した工場のうち、水マネジメント(取水)について、22%の工場がGreen評価、78%の工場がYellow評価となり、水マネジメント(節水)については、46%の工場がGreen評価、31%の工場がYellow評価、23%の工場がRed評価という結果になりました。
リスクの可視化を行い、可視化したリスクとセットで解決策を提案することで、リスク低減に向けたアクションプランの実行を迅速に行い、2020年1月の調査では、水マネジメント(取水)について、44%の工場がGreen評価、56%の工場がYellow評価となり、水マネジメント(節水)については、69%の工場がGreen評価、31%の工場がYellow評価、0%の工場がRed評価と大きく改善を進めることができました。


同様のプロセスで、今後も引き続きリスクの高い地域から優先的に、改善に向けた取り組みを実施していきます。
TCFDの提言に従い気候変動に対するシナリオ分析を試行し、気候変動がサントリーグループの重要な原料である農作物に対して大きな影響を与える可能性を把握し、対策の検討を今後進めてまいります。
3. リスク
サントリーでは、「リスク」をグループの戦略や目標の達成に影響を及ぼす潜在的な事象と定義しています。グローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)及び各事業会社に設置したリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを通じて、グループ全社を対象に重要リスクの抽出・評価を行い、自社にとって優先的に取り組むべきリスクを特定して対応策を検討し、毎年見直しています。
リスク管理体制

リスク抽出・評価のアプローチ
抽出されたリスクに対し、「リスクエクスポージャー」及び「対策レベル」の二軸でヒートマップを作成し、特にグループ全体の重要リスクについて、重要度を3段階で評価して優先的に取り組むリスクを特定しています。「リスクエクスポージャー」は「発生可能性(確率)×影響度(インパクト)」によって、「対策レベル」は対策の準備の度合いによって算出されます。評価の結果、気候関連リスクは最も重要度が高い最重要リスクの一つとして位置付けています。
【参考】影響度の評価基準
スコア | レベル | 発生確率 | 頻度/発現速度 |
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1 | 発生可能性は極めて低い | 5% 以下 | 10年に一度 |
2 | 発生可能性は低い | 25% 程度 | 6~9年に一度 |
3 | 50-50 | 50% 程度 | 3~5年に一度 |
4 | 発生可能性が高い | 75% 程度 | 1~2年に一度 |
5 | ほぼ確実に発生 | 75% 以上 | 毎年 |

【参考】影響度の評価基準
定量的基準 | 定性的基準※ | |||||
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スコア | レベル | 会社への影響額※ | 事業(人材・技術含む) | コンプライアンス(法令/規制上の影響) | レピュテーション | 戦略(顧客・ブランド・市場への影響) |
1 | 軽微な影響 | 売上高の 1%未満 |
考慮要素例
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考慮要素例
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考慮要素例
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考慮要素例
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2 | 一定の影響 | 売上高の 1-2%未満 |
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3 | 大きい影響 | 売上高の 2-4%未満 |
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4 | 重大な影響 | 売上高の 4-8%未満 |
||||
5 | 決定的影響 | 売上高の 8%以上 |
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※会社への影響額:複数の会社を統括する会社の場合はグループ全体への影響額
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※定性的基準:定量的基準での評価にそぐわない場合は、定性的基準を参考に評価する
【参考】対策レベルの評価基準
スコア | レベル | 対策手段 | 説明 |
---|---|---|---|
1 | 最低 | 決定的改善点が存在する | コントロール・監督が存在していないか、存在していても重大な欠陥のため意図どおりに機能していない。 |
2 | 低度 | 重要な改善点が存在する | 適切なコントロール・監督は限定的にしか機能しておらず、リスクが残存している。 |
3 | 中程度 | 改善の余地が存在する | コントロール・監督が存在しているが、重要な改善の余地がある。 |
4 | 高度 | 改善の余地が若干存在する | コントロールや監督が適切に実施されているが、運営に改善の余地がある。 |
5 | 最高 | 既に効果的な対策が実施されている | コントロールや監督が適切に実施されており、意図したとおりに運営されている。 |


特定したリスクの管理方法
特定した優先的に対応すべきリスクについては、責任者及びモニタリング機関を任命の上、リスクへの対応策を実施します。対応状況はグローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)において報告・議論し、対応結果を踏まえて次年度の重要リスクを選定することで、抽出・評価・対策・モニタリングのPDCAサイクルを回しています。

4. 指標と目標
サントリーグループでは、事業への影響が大きいと想定される気候変動および水について、2030年を目標年とする中期目標として「環境目標2030」を、2050年を目標年とする長期ビジョンとして「環境ビジョン2050」を定め、気候変動に向け取り組みを進めています。

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※12015年における事業領域を前提とした原単位での削減
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※22015年における事業領域を前提とした総量での削減
環境目標2030および環境ビジョン2050についての詳しい説明は、こちらのページをご覧ください。