知られざる研究と発見の歴史 うまい泡には、飽くなき探究心があった

良質なビールの証であり、香りやコク、苦みが凝縮され、ビールのうまさが表れる泡。
そんな「ザ・プレミアム・モルツ」の泡は、一夜にして生まれたわけではありません。
“神泡”に至るまでには、サントリー独自の研究の長い積み重ねがありました。
サントリー商品開発研究部の熊谷武士が、泡の研究の歴史をご紹介します。

サントリービール(株)
商品開発研究部
熊谷武士氏

おいしいビールづくりと同時に、泡の研究が始まった

 良質な泡には、香りやコク、苦みなど、ビールのすべてが凝縮されています。原料はもちろん、仕込、発酵、貯酒、濾過といったすべての醸造工程の条件も、泡に影響を及ぼしますので、良質な泡を意識しない醸造家はいないと思います。サントリーのビール事業が始まったのは1963年のこと。その瞬間から、良質な泡を追い求める挑戦が始まりました。

 では、どうやったら良質な泡をつくることができるのか? 理想を実現するための飽くなき研究が始まりました。

 例えば、1970年代には泡の付着性に関する新しい測定法を開発しました。ビールを注いでから飲み終わるまで、グラスにどれくらい泡が残っているか、その面積を割り出す方法です。お客様がビールを楽しむ際に、おいしいビールであることを感じていただけるための泡品質の評価法として、泡品質の研究の発展に大きく寄与しました。

 1980年代にはアワミクロンという機材を開発しました。製品容器に付けるもので、2つの抽出口があり、一方からはビールが、もう一方からは泡が出ます。この機材によって、さらにきめ細かい泡がつくれるようになり、香りなどのビールのおいしさをお客様により愉しんでいただけるようになりました。

 泡持ちが良く、きめの細かいクリーミーな泡を飲んだとき、「うまい!」と感じることは、私たちつくり手だけでなはなく、お客様にも広く認識されています。そのため、我々醸造家は、品質の評価を繰り返し行い、おいしいビールづくりと同時に理想の泡の実現へ一歩ずつ近づいていったのです。

革新的な3つの発見が、サントリーのビールを変えた

 1990年代初頭には、理想の泡を求めて泡のプロジェクトを立ち上げ、研究開発を精力的に行いました。そして1996年、その研究成果が、世界で最も権威のある国際学会のひとつ、全米醸造学会醸造部門の会長賞を受賞します。その論文には、泡にとって重要な3つの発見が記されています。

 1つめは、泡のもとになる泡タンパク質の検出・定量法を確立したこと。これによって、泡タンパク質をより多く含む麦芽を選び、良質な泡を生むための醸造工程の最適化が可能になりました。2つめは、ビール中に存在する塩基性アミノ酸が、泡にとってネガティブな因子であることを発見したこと。3つめに、酵母から出るプロテイナーゼという酵素が、泡タンパク質を分解してしまうことを証明しました。

 この3つの発見をベースに、良質な泡をつくるための新たな醸造条件をさがす日々が始まります。酵母が元気に働けるように0.1℃単位で温度管理をしたり、醗酵時間を緻密にコントロールしたりと、さまざまなトライアンドエラーを繰り返していきました。醸造工程における色々な分析はもちろん大切ですが、酵母は生き物ですから、醸造家たちの五感に基づく確認も必要不可欠でした。

 このような3つの発見を体系的にまとめたことは、サントリーが世界に先駆けて行った研究の成果です。これらを活用して、良質な泡を持つ理想の麦芽100%ビールづくりに近づくことができました。

理想の “神泡”を求めて

 世界最高のピルスナービールをつくる――。そんな想いから出発した「ザ・プレミアム・モルツ」は、連綿と受け継がれてきた研究と、その成果を実現するための技術の集大成と言えるビールです。

 例えば、原料である大麦ひとつとっても、さまざまな品種の泡タンパク質の量を調査し、さらに醸造家が世界各国に足を運んで品質を確かめたものを、厳選して使用しています。これまでの研究がなければ絶対に実現しなかったことです。

 また、ビールに苦みと香りを与える重要な原料であるホップに関しても、泡が引き立ててくれる、良質で華やかな香りを持つファインアロマホップを採用しています。手間がかかるダブルデコクション製法やアロマリッチホッピング製法を行っているのも、すべては良質な泡を通じて、溢れ出す華やかな香りと深いコクを感じていただきたいからです。

 研究成果をもとにベストな醸造条件を見出し、原料にも製法にもこだわり抜くことで、「ザ・プレミアム・モルツ」のうまさが実現しました。こうして、華やかな香りと深いコク、そして「ザ・プレミアム・モルツ」の特長を引き立てるクリーミーな泡、それ自体がおいしい泡が生まれたのです。

伝統と革新、その先へ

 サントリーでは、ビールづくりに携わる者を代々ドイツへと派遣し、本場のビール醸造を学んでいます。ドイツは麦芽とホップと酵母、そして水だけでビールをつくる、ビール純粋令という約500年前からの醸造法を今も守り続けている国。そういった伝統を目で見て、肌で感じたうえで、それをどう進化させるかが私たちの使命です。伝統的な製法のメカニズムを最新の科学で分析し、近代的な設備でビールをアップデートさせる。私たちはそれを“伝統と革新”と呼んでいます。

 一方で、技術が進んで様々なビールの特性が化学分析値で表されるようになってきても、決して機械任せにはしません。最後は醸造家の五感、経験や知恵をフルに使って、最良のビールを完成させることも私たちの哲学です。振り返ると、その哲学を50年以上も貫いてきた歴史が積み重なっていました。

 私も2015年から2年ドイツに留学し、1000種類以上のビールを官能する、ビールづけの日々を過ごしてきました。そして日本に帰国したとき、空港で真っ先に「ザ・プレミアム・モルツ」を飲んだ私は、その瞬間、「ああ、やっぱり『ザ・プレミアム・モルツ』は世界一のピルスナービールだな」としみじみ感じることができました。これほど華やかな香りとコクを両立して、それを最大限に引き立てる泡が乗ったビールはそうそうありません。そのことは、モンドセレクションの最高金賞という形でも世界に認められたと自負しています。

 世界最高のピルスナービールをつくる――。これまで歩んできた道は、決して間違っていなかった。そう胸を張って言えるのが、「ザ・プレミアム・モルツ」というビールです。しかし、私たち醸造家の理想の追求に終わりはありません。これからもさらなる美味しさの実現を目指し、探求を続けます。