マグナムドライ 開発物語 〜平成から新しい時代へ〜

登場人物紹介

和田龍夫 和田龍夫 わだたつお ビール事業部 マーケティング本部長

1987年入社。洋酒事業部・宣伝事業部・ビール事業部・RTD部などを経て、2018年よりビールマーケティング本部長。

相原絢 相原絢 あいはらじゅん ビール事業部 新商品担当

2008年入社。食品事業部を経て、2017年よりビールの新商品を担当。

“やってみなはれ”特命チームXへの異動

「マグナムドライで商品化したい!」。
眼の前にいる部下の相原の言葉に
和田はたじろいだ。
マグナムドライ。
和田が若きサントリーでの日々を捧げた
思い出の商品だ。
まるで20年前の自分を
彷彿とさせるような部下が
懸命に喋っている。
和田の思いは20年以上もの昔に飛んでいた。

 それは、平成という新時代にすっかり違和感がなくなった1996年(平成8年)。
入社9年目、宣伝部で活躍し、若手の有望株として頭角を現しはじめていた和田は、ある日、特命チーム「X」のリーダーへの異動の内示を受ける。サントリー「やってみなはれ」の象徴であるビール部門で、世間をあっと言わせるような新商品を生み出して会社を盛り上げることが命題の、異例中の異例の「特命プロジェクトチーム」であった。
 和田は重圧に恐れおののいた。もちろん、認められたうれしさは感じていたが、その栄誉と引き換えの「失敗は許されない」という重圧に身震いがする思いだった。
会社側からの司令はふたつ。出社には及ばず、納期はなし。月1回程度、進捗状況の報告があればよい。ほんとうにいいものができたときが納期だ。和田はこう言い渡された。
「出社には及ばず?」。さて、どこからはじめたらいいのか。和田は悩んだ。まとまらない頭で、いま手がけている宣伝用の刷り出しを眺めながら、頭の後ろに両手を当て、ひとり黙り込んでいた。
自分はサントリーのCMも商品も大好きで入社した。サントリーは自由な気風と「やってみなはれ」の精神で、数々のイノベーションを生み出し、世間を驚かせてきた。
「よし、俺もやってやるぞ」。和田は、しずかに、そして力強く、挑戦への決意を口にした。

うまいビールって何だ? 新ブランドへの”嗜好”錯誤

 広報マンで気心の知れたY、大学院で醸造を学んだM、社内の嗜好科学の研究をしていたK。和田を入れて4人の個性豊かな若手が集まった。
和田には、宣伝時代から大切にしてきた考えがあった。それは、アイデアとは既存の要素の新しい掛け算である、ということ。すなわち既存のもの同士の新結合が成功の鍵なのだ。このノウハウは商品開発にも絶対に活かせるはず。そのためには、まず「ビール」を徹底的に知ろうと考えた。
 ビールを学ぶため、サントリービールの商品開発研究所に通い、白衣で所内を駆けずり回った。さらに、「10日間で200種類のビールを飲む」海外視察や、「のどごし」や「味覚」の研究者に、様々なデータや教えを請うなどした。
 ビール以外にもあらゆる食品を研究し、ときには映画館や書店などにも入り浸ったたりもした。そこには「商品開発につながる」という、和田なりの理屈があったが、他の社員からは、サボって遊んでいるように見えたかも知れない。

 そんな日々を繰り返し続けるうち、方向性を見失い行き詰まることもあった。いったい、ビールってなんだ? なんであんなにおいしそうなのか。和田は、新商品アイデアどころか、あまりに多種多様な「嗜好の渦」に自分を見失いつつあった。他の社員は猛烈に働いている中、居心地の悪さと目に見えないプレッシャーに押しつぶされそうだった。
 もはや限界か。和田は思った。いや、待てよ。ビールは五感で感じる飲み物だ。雰囲気、気分、温度、場所。味以外にいろいろな要素がからんでくるんじゃないのか。そしてその飲み方は人によってそれぞれ違うはず。そうだ、徹底的にビール好きの話を聞こう。それが和田の、ビールを知るために嗜好“錯誤”した日々の最終的な結論だった。

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