Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

シカゴ

クルボアジェ
V.S.O.P.
45ml
オレンジキュラソー 2dashes
アンゴスチュラ
ビターズ
1dash
ローラン・ペリエ
ブリュットL・P
適量
シェーク/フルート型シャンパングラス
ローラン・ペリエ以外をシェーク。砂糖のスノースタイルにしたグラスに注ぎ、ローラン・ペリエを満たす

シカゴを飲んだら、カブスが勝利

またまた長年、気になってしょうがなかったカクテルを紹介する。なんだか変わった古臭いレシピだし、これって美味しいのだろうか、とカクテルブックのページをめくる度に想いつづけていた。

カクテル名は「シカゴ」。今秋、アメリカのMLBでシカゴ・カブスがポストシーズンを勝ちすすんでいるのをTVで観ているうちに、再びこのカクテルが気になりはじめた。それならば、とバーで試してみたら、しばらしくて108年ぶりにカブスがワールドシリーズを制覇したので驚いてしまった。

古典といえそうなカクテル「シカゴ」にわたしが注目したからシカゴ・カブスも甦り、遠ざかっていたワールドチャンピオンの座を獲得できた、と勝手に思っているのだが、余談が過ぎるのでまずはレシピを簡単に説明しよう。


ベースのブランデーにオレンジキュラソー、アンゴスチュラビターズを加えてシェークし、なんとグラスの縁を砂糖でスノースタイルにしたフルート型シャンパングラスに注いだ後、シャンパンで満たすというもの。シェークまでで終えると「ブランデー・カクテル」という名のカクテルになる。

「シカゴ」に関していえば、「ブランデー・カクテル」にシャンパンと砂糖をプラスして、贅沢に華やかにしてみました、といえるだろう。ただし、カクテル名の由来はわからないし、いつの時代に生まれたかもわからない。

味わいは、スノースタイルの砂糖が重要な役回りを担っている。砂糖の甘みがなかったら、インパクトのない味わいになる。砂糖なしで飲んでみると、ぶどうの感覚にオレンジ風味がほのかにそよぐような、まったくもって薄ぼんやりとした印象だった。ブランデーのコクよりもワイン様が強い。

あくまでわたしの推察だが、「ブランデー・カクテル」にしても、ブランデーの香味品質にいまのような洗練がなかった時代の飲み方ではないだろうか。いかにして美味しくまろやかにして楽しもうか、と工夫して生まれたものではなかろうか。現代のクルボアジェのような洗練されたコニャックをベースにしてつくっても、昔に飲んだ人たちが感じた味わいとは違うように思われる。

ブランデーやウイスキー、ジンなどの蒸溜酒に限らず、ワインをはじめとした醸造酒をベースにしたカクテルにもそんなふうに感じとれるものがある。

これらは酒が荒々しくて品質に大きなバラツキがあった時代の産物といえるのではなかろうか。だから砂糖とビターズを効かせるのだ。

古典を飲めば、カクテルが少しわかってくる

カクテルの定義に触れた文献で現在把握されている中で最古といわれているのは、アメリカはニューヨーク州コロンビア郡で刊行されていた週刊新聞『ザ・バランス・アンド・コロンビア・リポジトリ』の1806年5月13日の記事だといわれている。

そのほんの少し前、5月6日の記事中にカクテルというワードがあり、読者から「カクテルってなんですか?」との問いが寄せられたために13日の紙面で回答したものだそうだ。そこに書かれた内容は以下のとおり。
---------カクテルとはスピリッツ(蒸溜酒)に砂糖、水、ビターズ(薬草を使った苦味酒)を加えてつくる刺激的な酒---------

こう定義を述べた後に、“俗にビタード・スリングと呼ばれる”といったことも書かれているらしい。スリングはスピリッツに甘みを加えて、水やソーダ水などで満たした飲み物をいう。

ビターズを使い、シャンパンで満たし、甘みも添える「シカゴ」も、このビタード・スリングの系統のカクテルといえるだろう。だからわたしは古典的と述べたのだ。ちなみに日本では5月13日はカクテルの日となっている。

多くのカクテルブックでは、遠い昔に誕生したカクテルがかなりの数を占める。そこに掲載されているカクテルをすべて飲みこなすというのは不可能といえる。レシピの数は夜空に瞬く星の如く。でも、ときにカクテルブックのページをめくってみるのもいい。これってどんな味わいなの、材料の構成が面白いな、おかしな配分だな、と気になるカクテルがきっと見つかるはずだ。

そして気になるものを試してみるといい。レシピの変遷を知ったり、遠い昔の創り手に想いを馳せて飲むのも楽しい。バーで人気の高いスタンダードカクテルのレシピがいかにパーフェクトであるか、実感することにもなる。


再び話は飛ぶ。今回この文章を書きながらアタマの中でずっと繰り返し聴こえてくる歌声があって困っている。フランク・シナトラが歌う古い曲『シカゴ』である。わたしの青春時代は、ロックにはじめてブラスを取り入れ、ブラス・ロックと形容されたバンド、シカゴが人気だった。それなのにシナトラなのだ。マイケル・ジャクソンにも『シカゴ』という曲があるが、もちろんそれも浮かばない。

シナトラは大多数の日本人が得意としているカタカナ英語のようなはっきりとした発音で“シッ・カッ・ゴォゥ、シッ・カッ・ゴォゥ”と歌うのだ。それがアタマの中でグルグルと巡っている。かなり強烈で、ブラス・ロックのシカゴの曲を思い出そうとするのだが、浮かぶのは彼らのアルバム・ジャケットのデザイン。響くのはシナトラの歌声で、ビジュアルはロック・バンドのジャケットって状況に陥っており、わたしはこのまま壊れていくのではなかろうか。

カクテルの古典を飲んだせいなのか、カブスが108年ぶりに頂点に立ったせいなのか、思い浮かぶ曲も古いものになってしまったようだ。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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クルボアジェ V.S.O.P.
クルボアジェ V.S.O.P.

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