サントリー ワイン スクエア

末尾7の呪縛

天候に振り回された歴史的な2017年の収穫が終了しました。10月中旬に発表された速報によると、ボルドーは前年を45%、過去5年平均を35%下回り、26年ぶりの不作の年となりましたが、この傾向はボルドーにとどまらず、世界の収量は、何と50年来最低の年となった模様です。その主因はフランスと並ぶ世界の3大ワイン生産国でもあるイタリア、スペインも揃って霜害により低収量だったためです。ちなみにフランスは-19%、イタリアが-23%、スペインは-15%と予想されています。

ワインづくりは農業です。その中でもグランクリュのワインづくりは、最高の品質を追い求める事が宿命づけられている以上、<天候に振り回される事>自体はある意味当然の事ではあります。毎年の天候は一度として同じ状況が再現されることはないからです。毎年異なる天候に一喜一憂しながら、ひたすらに最高の品質を追い求めるのがわたくしたちの使命です。毎年異なる天候と言っても、何故か周期があるようです。ボルドーでは<末尾が7の年は不作>とのジンクスがあります。世紀の偉大年1947年を例外に、それ以降このジンクスは繰り返されてきました。太陽の活動が周期的である事からも、あながち迷信と決めつけるのも早計かもしれません。今年も4月末に26年ぶりとなる大霜害に遭遇し、やはり・・・と思われました。しかし、その後の乾燥して暑い夏を経て8月末の時点では、品質に関しては7の呪縛から逃れられるのではないかとの期待が大きく高まりました。統計的には、5月、6月と平年より気温が約2℃高く、7、8月は比較的涼しい印象があったものの、7月は平年を0.6℃、8月も0.1℃上回り、降水量は7、8月とも平年の半分以下と、データ上では天候に恵まれた夏でした。霜に遭わなかった区画の葡萄の生育は予想以上に順調で、色付きも早かったことから、今年の収穫開始は2003年以来の早い開始が予想された状況でした。

ただ、このまま期待通りに進まないのがワインづくりです。残念ながら9月は厳しい気候となりました。9月1日から気温も上がらず雨がちとなり、メドックマラソン前日の8日から17日まで10日連続での雨となってしまったのです。18日から一週間好天が続いたものの、9月末に再度まとまった雨となり、ラグランジュの雨量計では9月は100mmを超えてしまいました。成熟の早かった樹齢の若い区画では収穫を9/13から開始したのですが、これは過去2番目に早い収穫開始日です。シャトーもの用メルロの区画は、少し間をおいて9/21~25に収穫しました。カベルネ・ソーヴィニヨンは9/28の収穫開始で、10月6日にはオー・メドックも含めて今年の収穫を終了しています。ラグランジュの最終収量は、28hl/haと、平年より40%以上の減少という厳しいものになりました。

さて、品質に関しては<7の呪縛>は逃れる事が出来たのでしょうか?個人的にはその可能性が高いように思います。新聞での記事をみると、ペサック・レオニャンの霜に遭わなかった辛口白はかなりの高品質が期待されているようです。赤でも、ラフィットの一部の区画では2015年に匹敵する品質が得られているとの事でした。現時点での私の印象は、さすがに2015と比較するほど強気にはなれませんが、良年と言われる2014を超える可能性は十分にあるように思います。これからのアッサンブラージュ、それに続く熟成でどんな姿に仕上がるのかが楽しみであることは間違いありません。

今年のように、霜害によって開花の時期が区画の中でもバラバラな年は、一つの区画を何回かに分けて収穫するなど、きめ細かな対応の有無が品質を左右することになります。特に赤は、着色が始まってしまうと見た目で熟度の違いを判断するのは至難の業です。ラグランジュではヴェレゾン期(葡萄の着色が始まり柔らかくなり出す時期)に霜の害に遭った株の根元にスプレーで一株ひと株マーキングして、収穫のタイミングを変えるという非常に高コストな対応を取りました。こうした地道な作業が品質を造り上げ、ひいてはラグランジュの信頼に繋がっていくと確信しているからです。果たして報われたかどうかは、アッサンブラージュが終了した時点で改めてご報告させていただきます。

写真1:霜害を免れ順調にヴェレゾンの進む株
写真1:霜害を免れ順調にヴェレゾンの進む株
写真2:霜害に遭いヴェレゾンが遅れた株にはオレンジ色でマーキング
写真2:霜害に遭いヴェレゾンが遅れた株にはオレンジ色でマーキング
写真3:通り雨の中で行われたメドックマラソン(9/9)
写真3:通り雨の中で行われたメドックマラソン(9/9)
写真4:収穫初日(9/13):十分熟した樹齢の若い区画のメルロ
写真4:収穫初日(9/13):十分熟した樹齢の若い区画のメルロ