サントリー ワイン スクエア

困難に立ち向かって

早いもので今年も折り返し地点を過ぎました。この半年、フランスでは明るい話題と悲しい話題が波動のようにやってきました。この文章を書いているのがニースの惨劇の悲しみの中になってしまったことは、本当に残念でなりません。先月のBrexitに大揺れとなった欧州は、経済、移民、テロと、それぞれが複雑に絡み合った難題に直面し、各国の利害を超えた解決策を見い出せるかの正念場にあることを実感します。

そんな中にあっても、畑での作業、そしてワイン造りの現場は感傷的になっていることを許してはくれません。今年のフランスでは、雹害、遅霜、豪雨などの自然災害が来襲して、各ワイン産地で大きな被害をもたらしています。次々に襲い来る自然の難題もまた、社会問題と同様に手強い相手です。

ボルドーは他の産地に比べると比較的被害は軽微で済んだように思います。年初は異常な暖冬でのスタートでしたが、3月以降気温が平年を下回る状況が継続し、平年より一週間ほど遅い開花となりました。遅い開花が幸いし、開花期の気温は高めで比較的好天が続いたため、結実はスムーズに進みました。ラグランジュの畑では、サンジュリアンはほとんどの区画で結実良好で、収量は平年を上回りそうな感じです。一方、オー・メドックでは、サンローラン村で5月1日早朝に遅霜の被害があり、メルロとソーヴィニヨン・ブランの収量減は避けられそうにありません。キュサック村の畑では霜害は免れましたが、一部花ぶるいが見られましたので、レ ザルム ド ラグランジュとオー メドック ド ラグランジュの収量は平年を下回る可能性が高そうです。

品質面では、年初から続く天候不順での日射量不足が懸念されるところです。パリの一部が水没したニュースは記憶に新しいですが、ラグランジュでも1-6月の降水量は747mm(平年402mm)と半年でほぼ年間降水量に匹敵するレベルでした。ビオを導入しているシャトーを中心にベト病の蔓延も報告され、とあるグラン クリュ シャトーでは収量40%減に加え、品質への影響も懸念されているとの情報が入ってきています。ラグランジュでは今のところ深刻な病害の予兆は見られていません。7月に入りようやく気温も上昇し、予報では7月後半は本格的な暑い夏の到来となりそうですので、今後の生育の挽回を期待したいものです。

最後は今年の数少ない明るいニュースのひとつで締めくくりましょう。2015年ヴィンテージのプリムールに関する報告です。既に様々な記事が流れましたのでご存知の方も多いかと思いますが、今春のプリムールは久しぶりに売手と買手の双方が納得できたプリムールでした。2011年から2014年ヴィンテージまで難しい年が4年続いた後ということもあり、市場がグランミレジムを渇望していたという背景がまずありました。そして、大半のシャトーが値上げ率を慎重に選んだこともプラスに働いたと言えるでしょう。クルチエの集計では、プリムールを行った全シャトーの値上げ率は前年比5~30%に集中し、狂乱とまで表現された2009年や2010年に比べるとリーズナブルな範囲と受け取られました。もちろんすべてのシャトーが上手くいったわけではありません。一級シャトーは前年比60%アップと強気の値付けをし、シャトー マルゴー以外はスムーズに流れなかったとの情報が入ってきています。一級以外で高い値上げ率にチャレンジしたいくつかのシャトーでは、ネゴシアンから強い拒否反応を示されました。

2015年ヴィンテージの特徴は、AOCによって値上げ率に大きな開きがあったことです。収穫期の雨量に産地ごとで大きな差があったことが影響し、前評判の高かったマルゴー、ペサック・レオニャン、ポムロールとサンテミリオンは強気の値付けを行い、ポイヤック、サンジュリアン、サンテステフは相対的に穏やかな値上げとなりました。

ラグランジュは・・・といいますと、言うまでもありません。投機的なワインではなく『消費されるワインの最高峰を目指す』というフィロソフィーのもと、レ フィエフ、レ ザルムも含め、値頃感を感じて頂ける値付けを行いました。2009年同様、若くても楽しめるグランミレジムですので、ワインが市場に届くのを楽しみにお待ちください。

写真1:5/1にオー・メドックを襲った遅霜で凍った新梢(翌5/2撮影)
写真1:5/1にオー・メドックを襲った遅霜で凍った新梢(翌5/2撮影)
写真2:霜害の一週間後には新梢が枯死し、側芽頼りに
写真2:霜害の一週間後には新梢が枯死し、側芽頼りに
写真3:低地からわずか数メートル離れていたため霜害を免れた新梢
写真3:低地からわずか数メートル離れていたため霜害を免れた新梢
写真4:好天での開花で良好な結実となったサンジュリアンのメルロ
写真4:好天での開花で良好な結実となったサンジュリアンのメルロ