サントリー ワイン スクエア

ふたつの土台整備

ふと気が付くと、もう5月下旬ですが、現場での感覚はまだ5月上旬のような感じです。今年の冬は1-3月とも平均気温が平年を下回り、特に2月は平年を1.2℃も下回る寒い冬であったため、ぶどうの萌芽が平年より10日近く遅れたことも影響しているのかもしれません。4月は日中の最高気温が25℃を超えた日数が5日もあり、平年を1.1℃上回る暖かさとなったのですが、生育の遅れは完全には取り戻していないように見えます。

ゆっくりとしたぶどうの生育の足取りとは対照的に、今年のプリムールは駆け足で進んでいます。3/31-4/2に開催された恒例のユニオン デ グランクリュ主催のプリムール試飲会には5000人以上が集い、2014年ヴィンテージへの関心の高さが窺えました。今年のプリムールのトピックとして、ロバート・パーカーがボルドーの評価を後任のニール・マルティンに任せた事が話題となりました。これまでプリムール価格決定に絶大な影響を及ぼしたパーカーポイントから解放されたプリムールとして、ヴィンテージ2014は歴史に記録されるのかもしれません。

主要シャトーのプリムール販売開始は4月下旬から始まり、ピークは5月中旬で、今日現在幾つかのシャトーを除いてほぼ出揃った状況です。一級シャトーは約10%の値上げ、その他シャトーはブランド力とシャトーの戦略に応じて5%程度に抑えたグループと、20%以上一気に上げてきたグループ、そして10-15%程度の中間を狙ってきたグループの3つに大別されます。ここ数年プリムールのシステムそのものが機能しなくなってきたことから、『システムの土台を再構築するためにも節度ある価格での開始』を強く要望したネゴシアンサイドからは、かなり不満の声が聞こえてきます。一方で2014年の収穫量が平年よりかなり少なかったため、シャトーサイドの『品質と収量に応じた値上げを!』という主張にも一理あります。どの価格を選んだ事が正解であったかは、実際に瓶詰された商品が市場に出回る2年後を待たないと判らないと思いますが、『消費されるワインの最高峰を目指す』ことをフィロソフィに掲げているラグランジュは、5%程度に抑えたグループ内にいることは言うまでもありません。

さて今日は、もう一つの土台整備に関する話をしましょう。昨年8月号で、ぶどう畑の改植に関する貴重なノウハウとしてドレイン(土中に埋設する排水設備)用のチューブ埋設の様子をお伝えしました。今日はその続きとして、埋設終了後の畑の次のステップについてご説明します。まず写真1-1は昨年8月にドレイン埋設が終了した時点の写真です。その後秋にイネ科の燕麦、マメ科のカラスノエンドウやクローバーを播種し、発芽した直後の光景が写真1-2で、成長した燕麦が区画を覆いつくしている現在の状況が写真1-3です。発芽後の育ちっぷりは丘の上から撮影した2枚の写真(2-1、2-2)を比較して頂くとよく判ると思います。来週にはトラクターで鋤き込んで緑肥として土壌を改良し、秋の植え付けに備えるのです。こうしたカバープラントをぶどう苗の植え付け前に栽培する事の効果は、鋤き込んだ後で緑肥となるばかりでなく、根が深く入り込む植物を選ぶ事で、土壌の物理性が改善されることにもあります。ぶどう苗を一度植えつけたら、50年後の次の改植まで抜本的な土壌改良をすることは出来ませんので、2~3年じっくりと時間をかけて畑を休ませ、土壌を再活性化させることには非常に重要な意味があるのです。この時間をかけた再活性化は、自然に優しい農業<テラヴィティス>の認証を受ける上でも必須事項となっており、良いぶどう造りの大切な土台整備として認識されているのです。