サントリー ワイン スクエア

記録は破られる為にある??

30年に一度と言われたヴィンテージ2005から僅か4年後には50年に一度という名目でヴィンテージ2009が出現し、その翌年にはスタイルは異なるが2009年に匹敵、というヴィンテージが現れました。そのヴィンテージ2010のプリムールでは2009年を凌駕する価格が目白押しとなり、当のフランス人さえも驚いているというのが現実でしょう。この価格を支えているのは中国市場に間違いありませんが、この市場とて、無限に価格上昇を吸収できるわけではありませんので、いずれ壁に突き当たることは間違いありません。ただ、どのシャトーにとっても競合シャトーとの位置関係はブランド価値を誇示する重要な鍵でもありますので、薄氷の上を探りながらも常に上を目指すことを続けざるを得ません。あたかもロシアンルーレットのようなプリムールとなっており、銃の中に弾が入っているのかは、神のみぞ知るところ・・・という感じです。
今年はVINEXPOの年にもかかわらず、ついにスーパー2級と1級シャトーはVINEXPO前にはプリムールを開始しませんでした。VINEXPOを跨ぐのはヴィンテージ2005に次いで2回目で、VINEXPOに集まる世界中のプレーヤーの反応を見て、高値開始の機会を窺っていることは間違いありません。このワイナリー便りを公開するころには結果は明らかになっていると思われますが、さて、どんなサプライズが待っているのでしょうか。

記録的となっているのは、プリムールの価格だけではありません。前報にて春先までの記録的な高温については触れたとおりです。その後も乾燥・高温が継続し、4月の平均気温は平年をなんと4.8℃上回り、降水量はわずか平年の14%、日照時間に至っては平年の1.6倍という具合でした。5月も乾燥した好天が継続し、5月の平均気温は平年を3.3℃上回り、降水量はわずか8mmと平年の9%に止まり、日照時間も平年の1.4倍となりました。この影響で、開花は平年より3週間早い開始となりました。開花期の天候も良かったため、昨年の様な花振いは見られず、着果も順調に進んでいます。気の早い関係者は既にヴィンテージ2011が偉大な年となる可能性について語り出しており、その場合、今度は60年に一度・・・とでも説明するのかもしれません(笑)。
一方で、季節外れの暑さは大きなリスクも秘めており、4月25日夕方にはソーテルヌとグラーヴで雹(ひょう)が降り、畑の90%以上が被害を受けたシャトーもあったようです。シャトー・ディケムやシャトー・ギローなど著名シャトーでも被害があり、今年の収穫量への影響が懸念されているとの事でした。続いて6月2日にもマルゴー地区で降雹があり、100ヘクタール以上の畑で被害を受けたようです。この日はラグランジュでも畑の一部で降雹があり、肝を冷やしたのですが、幸い葉への軽いダメージのみで済みました。

話は変わりますが、今年6月は4年に一度開催されるISVV(ボルドー大学醸造学部に複数の研究機関が統合されたインスティテュート)主催の醸造学国際シンポジウムの開催年にも当たっていました。ボルドー大学へは、30年来、継続してサントリーから留学生を派遣しており、シンポジウム開催責任者のダリエ教授の下に現在も一名在籍していることから、シンポジウム主催のガラディナーをシャトーラグランジュにて行えないかとの打診がありました。古くは前任者の鈴田氏の受け入れに始まり、ラグランジュ買収直後の立ち上げ時にはペイノー教授自らがコンサルタントとして支えてくれるなど、ラグランジュにとってもボルドー大学との絆は固く深いものでしたので、喜んでお受けしました。
シンポジウム中日の6月16日の夜、世界各国からの研究者など110名を集めて、まずシャトー中庭でのカクテル、次いで樽熟庫内での晩餐会を取り行いました。天候にも恵まれ、初夏の夕方の心地良い庭園、そして樽熟庫の雰囲気、・・・研究者の皆様には、自然と科学の双方が揃って初めて可能となるグランヴァンの世界、その奥深さを改めて実感して頂けたのではないでしょうか。

醸造国際シンポジウム主催のガラディナー(シャトー中庭でのカクテル)
醸造国際シンポジウム主催のガラディナー(シャトー中庭でのカクテル)
醸造国際シンポジウム主催のガラディナー(シャトー中庭から樽熟庫へ移動)
醸造国際シンポジウム主催のガラディナー(シャトー中庭から樽熟庫へ移動)
醸造国際シンポジウム主催のガラディナー(樽貯蔵庫内での晩餐会)
醸造国際シンポジウム主催のガラディナー(樽貯蔵庫内での晩餐会)
開花期の好天で花振いもなくたわわに実ったメルロー。平年より3週間は早い。
開花期の好天で花振いもなくたわわに実ったメルロー。平年より3週間は早い。

※現在シャトーラグランジュの販売は(株)ファインズで行っております。
詳しくは(株)ファインズのホームページをご覧下さい。http://www.fwines.co.jp/