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ワインビギナー ハセガワくんが行く! Step Up! ワイン道

Lesson10 新酒とイタリアワインを楽しもう 新酒(ボジョレー ヌーヴォー、ヴィーノ ノヴェッロ)・イタリアワイン編 ジョルジュ デュブッフ ボジョレー ヌーヴォー ボッラ ノヴェッロ チェレット モンソルド マストロベラルディーノ ラクリマ クリスティ(赤)

●ジョルジュ デュブッフさんも、『生涯のうちで最も自信作』と太鼓判

「では、再び乾杯!」
ハセガワくん、メグミさん、佐久間先輩の3人が、ワインバー芹澤のカウンターで、ワイングラスを小さく鳴らしました。

そう、今日はボジョレー ヌーヴォーの解禁日、11月の第3木曜日。ボジョレー ヌーヴォーを輸入しているクライアントとともに、この日に合わせてさまざまなイベントを企画してきた佐久間先輩は、先ほど無事に解禁パーティを終えることができたのでした。そして、興奮冷めやらぬまま、いつものメンバーでいつもの場所に流れ込んだというわけです。

「おつかれさまです。イベント大成功でしたね」
メグミさんが労いの言葉をかけると、佐久間先輩はさも残念そうに言いました。
「これで永井さんを誘い出す口実が、なくなっちゃうよ」
「またそんな冗談ばかり言って」
メグミさんは笑っていますが、ハセガワくんとしては内心穏やかではありません。
「と、ところで、今年のボジョレー ヌーヴォーは、すごくおいしかったですよねっ」
慌てて別の話題を振りました。

「本当! 今年のは香りが華やかなだけでなく、酸味も渋味もあって、よかったわ」と、メグミさんもハセガワくんに合わせます。
「確かに去年や、猛暑のおかげで“世紀の年”といわれた2003年よりも、出来がよかった感じがするな。来日していたジョルジュ デュブッフさんも、『72年の生涯のうちで最も自信作』って太鼓判押してたものな」
佐久間先輩の言葉に、ハセガワくんが尋ねました。
「パーティで挨拶していたおじさんですよね? エライ人なんスか?」
「ジョルジュ デュブッフといえば、“ボジョレーの帝王”といわれる人だよ。オマエ、そんなことも知らずに、オレの仕事、手伝ってたのか?」

呆れる佐久間先輩をなだめるように、ワインバー芹澤のマダムが言いました。
「デュブッフさん、今年もいらしたのね。彼はブルゴーニュ地方のボジョレー地区の新酒のおいしさを、世界中に広めた功績者なのよ」
「へぇ〜、知らなかったぁ」

「今年のボジョレー地区は、日中と夜の寒暖が激しく、ブドウの熟成には最適だったようね。通常のワインは、実を潰してから発酵させるけれど、ボジョレー ヌーヴォーは房を丸ごと発酵槽に入れて、数日間炭酸ガスに漬け込んでおく方法で発酵させるの(※)。これによってブドウの粒の中で発酵が起こり、赤い果実や花を思わせる、甘くフルーティな香りが生まれて、皮からの色も溶け出しやすくなるというわけ。この状態の房を搾り、あとは白ワインと同じように発酵させるから、種から渋味が出ることもないの」
「だから、あんなに華やかでフレッシュだったのかぁ」
マダムの説明に、みんな深くうなずきます。

「今日のパーティのお料理は、サラミやハム、煮込み料理など、肉料理が多かったんですけれど、他にはどんなものが合うんですか?」と、メグミさん。
「そうね、ハムなどのコールドミートや煮込み系は定番の組み合わせね。さまざまな野菜をトマトと煮込んだフランスの家庭料理のラタトゥイユは、ボジョレー地区の人たちがまさしくブドウの収穫期に畑で食べる料理なの。もちろん、ボジョレー ヌーヴォーとは、よく合うわ。このほかにも、香ばしく焼いた魚や、生ハムで魚を巻いてソースを添えたものなども、おすすめよ」
「赤だけど、重たくないから、魚とも相性がいいってわけですね」

●新酒の解禁日は、日本でいう収穫祭

「フランスの新酒を飲んできたのなら、今夜はイタリアの新酒ではどうかしら?」
「えっ、イタリアにも新酒があるんスか?」
驚くハセガワくんにマダムが差し出したのは、ボッラ ノヴェッロのボトルでした。
「そう、『ヌーヴォー』はフランス語で“新しい”という意味。これに対してイタリア語では『ノヴェッロ』というの。新酒のことを『ヴィーノ ノヴェッロ』と呼ぶのよ」

「解禁日は、やっぱりヌーヴォーと同じ時期なんですか?」
「ノヴェッロの解禁日は、11月6日よ。イタリアはフランスより南に位置するから、その分早いのね」

「イタリアは、フランスみたいに解禁日を曜日で決めているのではないんですね?」
「そう、日付が決められているの」
ハセガワくんが尋ねると、マダムが答えました。すると、佐久間先輩が得意そうに付け足しました。
「ちなみに、ヌーヴォーの解禁日が曜日で決められているのは、日にちを決めてしまうと、年によっては週末と重なってしまうことがあるから。以前は11月15日と決まっていたのだけれど、休日と重なるとせっかく新酒を出荷したのに、運送業者が動いてくれず、解禁日にワインが届かないことがあったそうなんだ」
「へぇ〜」
「新酒の解禁日は、日本でいう収穫祭。お酒の神様であるバッカスに捧げて感謝すると同時に、今年の作柄を占う意味もあるわ。お祭りだから、とにかく楽しく飲むのが大事なのよ」とは、マダム。

「ボジョレー ヌーヴォーのブドウ品種は、主にガメ種ですよね? ヴィーノ ノヴェッロはどうなんですか?」と、メグミさん。
「いい質問ね。イタリアでは、60種類以上ものブドウが使われるの。醸造法も各州の気候や品種に合わせたつくり方で行なわれているのよ」
「60種類! じゃあ、このボッラ ノヴェッロは?」
「メルロとカベルネ・ソーヴィニヨンよ。北はピエモンテから南はシチリアまで、各州つくられているの。見分け方は、土地ではなく、つくり手の名前よ。ボッラ ノヴェッロは、『ボッラ社がつくったヴィーノ ノヴェッロ』ということ」

●ノヴェッロはヌーヴォーよりさらに軽やかで、果実味たっぷり!

薀蓄はほどほどに、早速味わってみると、ボッラ ノヴェッロもさすが新酒、先ほどパーティで飲んだボジョレー ヌーヴォーに負けないくらいフレッシュで華やかな香りです。
「味はボジョレー ヌーヴォーよりさらに軽やかで、果実味たっぷり」と、メグミさん。
「うん、渋味がほとんどないから、飲みやすいね」と、ハセガワくんも頷きました。

「今夜は、ノヴェッロだけでなく、他のイタリアワインも味わっていただこうと思って、イタリアのカラブリア料理を用意したんですよ」
「カラブリア料理って?」
さすがの佐久間先輩も、まだイタリアの知識までは十分もちあわせていない様子。

「カラブリア地方は、イタリア半島左端、つまり、長靴のつま先に位置するの。シチリア島にも近く、海の幸はもちろん、山の幸も豊富よ。特に有名なのが、『ぺペロンチーノ』。唐辛子のことよ。パスタの名前にもあるでしょう? 豚の脂身・内臓・唐辛子・塩を腸詰して燻製・熟成させた『ンドゥイヤ』も、名物料理ね」
「どれも唐辛子を使うってことは、辛いんですよね?」
「そう、ノヴェッロとも相性がいいはずよ。唐辛子を使った料理は、水を飲むとさらに辛味が増すから、イタリア人はワインを飲むの」

3人がイタリアの新酒とおしゃべりを存分に楽しんだところで、マダムが次のワインを用意しました。
チェレット モンソルドというワインよ。新酒はフレッシュ感を楽しむワインだから、初心者の方にもオススメなの。でも、そろそろハセガワくんには、もの足りないころじゃないかしら」
マダムがいたずらっぽく笑います。
「待ってました!」と、一番うれしそうなのは、佐久間先輩でした。

ハセガワくんも、ひと口飲んで思わず唸りました。
「うーん、しっかりした味だなぁ」
「ホント、マダムの言うとおり、ハセガワくん、成長しているわね!」
と、メグミさん。
「だって、ハセガワくんの中間テストの結果は、素晴らしかったって聞いてるわよ」
マダムがからかうように言うと、メグミさんは耳まで赤くなりました。

それを見ていた佐久間先輩は、ちょっと面白くなさそうです。
「このワイン、味わいも素晴らしいけれど、ボトルデザインもかっこいいですね」
佐久間先輩の言葉に、マダムはニコニコして言いました。
「そうなの、このモンソルドをつくっているチェレット社は、ボトルやラベルのデザインにとても凝ることでも知られているの。バローロやバルバレスコといった、イタリアを代表する地域のワインもつくっているのよ」

豚肉のローストのジャムソース添えを食べていたハセガワくんが言いました。
モンソルドは、豚肉料理によく合うなぁ!」
「そう、新酒にはないしっかりとしたつくりで、なめらかなタンニンが豚肉の味によくマッチするのね。まろやかな果実味とバニラを思わせる上品な樽香を感じるでしょう? これが、料理のジャムソースの甘味を受けとめているの」
「確かにヌーヴォーノヴェッロはもっと気軽に飲める感じよね。焼きそばとかお好み焼きが合うイメージなんだけど……」
メグミさんの意外な発案に、マダムもうなずきました。
「確かにそうね、新酒の甘味×焼きそばソース甘味は、意外に合うかもしれないわ」

●その土地のワインには、やはりその土地の食べ物が合う

「ラストは、マストロベラルディーノ ラクリマ クリスティ(赤)よ」
「聞いたことある名前だなぁ」
「『ラクリマ クリスティ』は、“キリストの涙”という意味。いわれのあるワインだから、お話をご紹介しましょうね。昔、大天使サターンが天国から追放されるときに、天国の土地を一部盗んで逃げたのだけれど、途中で落としてしまったの。その土地がナポリになったと言われているのだけれど、サターンが持ち去った土地だけあって、その町に住んだ人たちは悪行の限りを尽くしたそうなの。その様子を天界から見ていたキリストが、悲しみのあまり涙をこぼしたのね。そうしたら、涙が落ちた場所から、1本のブドウの樹が生えてきて、素晴らしいワインを生み出すようになったと言われているのよ。かのゲーテも飲んだワインよ」
「力強くて、でも酸味はしっかりとあって、おいしいワインですね」
ハセガワくんも、気に入った様子です。
「今日のカラブリア料理の地域には、ラクリマ クリスティのほうが同じく南のカンパーニャ州で近いから、より合うかもしれないわね」
「確かに、新酒だけ飲み比べても、イタリア料理にはヌーヴォーよりノヴェッロのほうが合う気がします。その土地のワインには、やはりその土地の食べ物ということなんですね」

「さて、新酒の解禁日も無事に終わって、次は年末年始の宴会シーズンだ! 次はどんなワインにする? 忘年会の前に、今度、試飲でもどう?」
ハセガワくんがマダムと話し込んでいる間、佐久間先輩は、わざと抜け駆けを狙ったのかメグミさんに話し掛けました。
それをハセガワくんが聞き逃すはずがありません。慌てて「ボクも、ボクも!」と名乗りを上げたのでした。

こうして、ボジョレー ヌーヴォー解禁日だったこの日の夜もまた、ワインバー芹澤の夜はにぎやかに更けていきました。
今回のポイント
ボジョレー ヌーヴォー
ブルゴーニュの南端にあるボジョレー地区で収穫されたばかりのブドウを使ってつくられる、新酒。解禁日は毎年11月の第3木曜。時差の関係上、日本が世界で一番早く飲むことができます。ボジョレー ヌーヴォーの知名度を世界的なものにしたのは、“ボジョレーの帝王”と呼ばれるジョルジュ デュブッフ氏です。

ヴィーノ ノヴェッロ
イタリアの新酒のこと。ブドウ品種が多彩なイタリアらしく、ノヴェッロになるブドウは、60種類以上。地域やつくり手によって、使うブドウ品種や製法が異なります。華やかで力強い味わいながら、複雑さももちあわせているのが特徴です。解禁日は毎年11月6日。

イタリアワイン
イタリアは、北から南まで、ほぼ全地域でブドウが収穫でき、ワインの生産量、消費量、輸出量ともに、常にフランスとトップを争っています。産地によって味がまったく異なるのが特徴で、気候や土壌の違いのほか、1000種類以上あるといわれるブドウ品種が、イタリアワインを多彩で複雑なものにしています。
今回のワイン
ジョルジュ デュブッフ ボジョレー ヌーヴォー
ボッラ ノヴェッロ
チェレット モンソルド
マストロベラルディーノ ラクリマ クリスティ(赤)
 
登場人物紹介
長谷川 潤
某広告代理店営業部に勤務する、28歳、独身。総務課のメグミちゃんとのデートで大失敗したのを切っ掛けに、ワイン通になることを決心。「ワインバー芹澤」で、マダムにワインの手ほどきを受ける。
マダム
「ワインバー芹澤」のマダム。年齢・経歴不詳の謎の人。その穏やかな人柄と笑顔に、ファンも多い。ワインに関しては、知らないことはないほど、知識が豊富。
佐久間一志
明るく、面倒見のよい、ハセガワくんの職場の先輩。「ワインバー芹澤」の常連客。
永井 恵
ハセガワくんの意中の人。同じ会社の総務部に勤務している。「ワインエキスパート」の資格をもつほどのワイン通。
ピエール
「ワインバー芹澤」の常連のフランス人。東京近郊の白い大きな洋館に独りで住んでいる。推定年齢35歳〜40代前半。
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