
(前編からの続き)
ワインづくりは自然のペースで進みます。
登美の丘ワイナリーはその名の通り、小高い丘です。林もあれば、沢もある。その一部にぶどう畑があるんですね。
林の中には、梅、桜、胡桃、桑、栗など、実にいろんな種類の木が生えています。竹やぶもあり、ゴールデンウィークの直前からは、筍が次々と顔を出します。「もちろん、採って食べますよ(笑)。沢にはみつばが自生していて、これがまた旨いんです」と渡辺直樹技師長。ふきのとうは?「3月中にはお目見えしますね」。週に何度も敷地を見回り、ぶどう畑だけでなく、林の木々や水辺の草花にもまなざしを注いでいるのです。
「去年の12月からずっと寒かったので、今年は春が遅かったですね。桜の開花が平年より5日から1週間ほど遅れました」
ちなみに、「ぶどうの涙」がこぼれ落ちたのは例年より2週間遅れの3月26日。寒さによる遅れがぶどうの生育に影響を及ぼさないか、気になるところですが、「心配は要りません。降水量が少ないと凍害などの可能性も出てきますが、今年はちゃんと雨が降りましたから、大丈夫」。
遅れた分だけ、芽掻きの時期を後ろ倒しにするなど、栽培スケジュールは自然の営みに寄り添います。「でもね、冬が寒くて芽吹きが遅いと、温かくなってから樹々は巻き返しを図ろうとするんですよ。だから、収穫はだいたい例年通りになってきますね」
考えてみれば、1年間のワインづくりの9割は畑の仕事で占められます。一事が万事、自然の営みに従わざるを得ない……。
「僕の生活も、人間社会のペースより自然のペースに合わせたほうがいいなと思うことは多いですよ。夏は早朝から仕事して、雨の日は休むといったように」。確かに、自然には土曜も日曜もありません。「ゆくゆくは敷地の中に住むことも考えたいなぁ」と語る渡辺技師長なのでした。
昨年12月からの寒さがずっと続いて、今年は春の訪れが遅れました。4月頭にようやく梅が満開に。
桜は中旬になってから。
日本の伝統的な雑木林の姿です。
所々に沢があって、水が流れています。
ぶどう畑からは甲府市街地が見渡せます。その向うには
富士山も。春の色合いを増していく様が素敵です。
剪定で切り落とした枝は細かいチップにして、
秋の仕込み後の搾りかすと一緒に堆肥にします。
登美の丘内で循環しているんですね。
「あの小屋を改造して、寝起きできるようにしたいなぁ」と 渡辺技師長。登美の丘と一体化する生活を夢描いています。
photographs by Tsunenori Yamashita
1988年サントリー入社。89年から登美の丘ワイナリーにて栽培・醸造技術開発を担当。92年にボルドー大学へ留学、エノログ(ワイン醸造士・フランス国家認定)取得。 2007年より現職。
君島佐和子-文
ジャーナリスト/『料理通信』編集長





