

| 樽の修理のための工具箱を手に、奥出健治は山崎の貯蔵庫の中を歩く。入社以来36年もの間、彼は貯蔵グループ一筋に生きてきた。 「どっこも知りません。樽と原酒だけを見てきました。ここしか知らないから引き取り手もありません。おそらく定年まで貯蔵庫の中を歩きつづけることになるでしょう」 奥出はそう言って明るく笑った。朗らかで、ひと目で優しい人柄であることが伝わってくる。 |
「体型も36年の間に、樽のようなええ形になってしもうて」その言葉に、つい乗せられて、こちらも「そうですね。立派なパンチョンみたいですね」と失礼なことを言ってしまった。
パンチョンとは樽の形のひとつ。容量約480リットルでずんぐりとしている。すっきりとした木香の原酒を生むことで知られるが、貯蔵庫の番人、正しくは庫人(くらびと)と呼ばれる奥出とすべてに合致するように思えるのだ。