
サントリー チーフブレンダー輿水精一が、響12年を開発するに際して込めたこだわりの1つは、ミキサブルさ、いわゆる多様性であった。その意図を見事にくみ上げ、また新たな解釈を加え、1杯のグラスの上に具現化するバーテンダーが日本、そして世界には数多く存在する。
その一人が「2010 サントリー ザ・カクテル アワード」のウイスキー部門に「響愁〜ノスタルジア〜」(以下響愁)を出品し、優秀賞を獲得した伊藤大輔氏だ。響がもつさまざまなニュアンスをかぎわけ、それに合うものを分解し、再度組み立てる。その独特のアプローチによって氏は響とワインとの新たなコラボレーションを生み出した。
銀座6丁目の路地裏、よほどの冒険心を持ち合わせなければ、きっと立ち入ることはないであろうその場所にランド・バーはある。実はここ、名店と名高いスタア・バー・ギンザの姉妹店である。店主の岸氏とは旧知の仲という輿水も訪れたのは初めてだという。
まさに昭和のたたずまい。カウンターのみの8席、鰻の寝床のような空間がなぜかとても居心地が良い。輿水はまるで一番乗りの客であるかのように、奥の椅子に腰をおろし、店内をゆっくりと観察しながら、最後にバックバーに視線を送った。
「品揃えはご自分の判断で、それとも岸さんが?」
「いえ、好きにやれと。スペースに限りがありますから、常連のお客さまがこれを置いてくれと言われたら、そうしたりもしています」
昨年オープンしたこのランド・バーはいま伊藤氏が一人ですべて切盛りしている。
「そろそろ、お作りしましょうか」
ワインボトルを取り出し、手際よく抜栓する。「響愁」は響をベースに、赤ワインを組み合わせたカクテルだ。小気味良いシェイカーの音が店内に響き渡る。カクテルピンでとめたチェリーの飾りを添えて、輿水の手元にそっと差し出した。
「おおぉ」。輿水はまるで食むように味わい、その余韻に浸っている。
輿水:さっぱりと言うと、ちょっと違うんですけど、すぅーと入ってきますね。酸味もあとから少し感じられて。響12年の梅酒樽熟成原酒が軽い酸味を連想させますけど、これがまたワインとの相性が良いんだなあ。
イメージとしては、ワイン樽で熟成された原酒を使って響を作ったらどんな風になるのだろうと思ったのが、発想のもとなんです。ワインにほんの少し響を入れただけで、普通と違う、おいしい飲み物ができたんです。それが驚きで、それからフルーツのフレーバーを表現するために、クレームドペシェを合わせました。
輿水:なるほど。フルーティ感がより広がって、響がもともともっていないものが強調されている。余韻も相当強くなってますね。これは本当にすっと入っちゃうなあ。
響って完成されていますし、バランスが良いお酒ですから、これ以上なにかやっちゃいけないんじゃないかって思いもあったんです。だから、カクテルにする以上は、無いものを加えて、何か新しいものにという意識はありました。できあがったときに、もう少しアルコール感があるかと思っていたら、想像以上にやさしくて。自分で驚いたくらいです。
輿水:これは響の量は3分の1くらい?
いえ、もっと入ってます。半分以上ですね
輿水:へえ、それでこんなにすっと入ってくるんだ。あと味のフルーティ感もすごい、余韻も長いし。こりゃ、いいや。
サントリーのワインで、「登美の丘」を使っているんですけど、ボリューム感とかフルーティさとかがちょうどいいんです。ただビンテージやいろんなものに味が左右されます。カクテルアワードに参加したとき、最初は2007年で作っていたんですが、アワード当日には2007年が用意できないと言われ、2008年で調整しなおしました。ぜんぜん印象が変わるんですね。ワインにはそういう難しさとかおもしろさがあります。
輿水:なるほど。ウイスキーとシェリーだとどうなるんですか?あまりにも近すぎるのかな、少なくともこのフレッシュなフルーティ感はないと。
そうですね、いろいろ試してみました。シェリーはまさにそうですし、響をあたためて、紅茶を入れてみたり。これはウイスキーの熟成感と紅茶のロースト感があまりにも共通項がありすぎて、いいところを互いに打ち消していました。
輿水:たしかにウイスキーの中にも、紅茶のいい葉の香りがあります。それをうまく引き出したカクテルができれば、おもしろいかもしれませんねえ。
ワインってこういうバーだと少し残ることがあるんです。そういう時に遊びも含めて、しめの1杯に使えるかなとも考えていたんです。ボルドーを試してみましたけど、華やかで、すこしこってりとした重いものになったりします。日本のワインでも「登美」を使えば、もっと違うものになると思うんですけど、さすがに高価でカクテルにするには勇気がいりますが・・・。
輿水:なるほど、そうだよなあ。基本のレシピがあっても、ワインだから、変化の度合いが大きいよね。同じ登美の丘でもそうだろうし、でもそこに予想できないおもしろさみたいなものがあるんだねえ。
予測不能のおもしろさといいますか、相乗効果で生まれた新しいもの、そうした要素はカクテルにはたくさんあります。いままで見たこともない組みあわせで、もちろん失敗のほうが多いんですけど、その分発見したときの喜びはとても大きいです。
輿水:ウイスキーをブレンドするときも、最初にどんな原酒を選ぶかによってぜんぜん変わってくる。いままでにないものを選んで、それを使って何とか新しいレシピを作ってやろうっていう思いはありますね。それは結果的に最初に目ざしたものと違うものになる可能性もある。でも、それがおもしろいですよね。
例えば、響の12年にはプラムとかラズベリーとか蜂蜜のニュアンスがあると思うんです。その中で蜂蜜に注目するときに、それに合わせてあるもの、例えばゴルゴンゾーラを分解してみる。青カビの青くささ、少しヒネたところ、乳製品のニュアンスなどが感じられますけど、そういうのがヒントになったりします。そこで蜂蜜みたいなドランブイを加えてみるとか。構造分解して、新しい発見があるのはおもしろいと思います。
輿水:おもしろい発想ですね。ワイン樽熟成っていう着眼点もいいし、このカクテルはすごく響12年の素材を生かしていただいたなって気がします。日本のウイスキーの響と日本のワインの登美の丘と、どれも必要以上に自己主張していなくて、とっても相性がいい。
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