
銀座には酒を知る大人たちが本物と認めるバーの名店がある。世界カクテル・コンペティションにおいて世界一の称号を獲得、そしてバーテンダーとして初めて「現代の名工」となった岸久氏率いるスタア・バー・ギンザだ。
ここで紹介するのは、その店ではない。姉妹店として2010年にオープン。岸氏に鍛えられた若きバーテンダーがたった一人で切盛りする、知る人ぞ知る路地裏のランド・バーである。
若きと言っても、そこは岸氏が店を任せる人物だ。バーテンダーの伊藤大輔氏は2007年にスリランカで開催されたTeaソムリエ世界大会第三位をはじめ数々のコンクールで活躍。昨年の「サントリー ザ・カクテル アワード」ではウイスキー部門に響と赤ワインをあわせた「響愁〜ノスタルジア〜」を出品し、優秀賞を獲得している。
そもそも彼が、スタア・バーに勤めるようになった経緯がおもしろい。
「岸さんとの出会いは2000年に遡ります。当時、私は仙台でバーテンダーとして働いていました。そこにいらしたお客さんが、東京で飲んだ同じカクテルがうまかったという話をされたんです。要はいま私がお出ししたのはダメだったんだなと」
次の休みの日には新幹線に飛び乗り東京へ向かっていた。
「銀座ってことしかわかんなくて、何軒かまわって、たどりついたのがスタア・バーで、そこだけ何かが違いました。『これ、どうやったら作れるんですか?』と岸さんに聞いたのがそもそもきっかけです」。
ほどなくスタア・バーに入店。「3年だけの修行のつもりが、なぜか今にいたるというわけなんです」とケレン味なく笑う。

場所柄、顧客は年齢層が高く、銀座をよく知り、目も舌も肥えている。ごまかしはきかない。そんな人たちの響の評価は。
「最近は12年のファンが増えましたね。以前、水割りは響17年とバランタイン17年、この2つが最高だと教えてくれたお客さんがいらっしゃって、私はいまだに、水割りはこの2つの17年が最高だと思っています。21年を置いているのは、もうそれしか飲まないお客さんがいるんです。単純にうまいから、好きだから、とおっしゃいます」。
「できるだけ素材を生かすことを心がけるようにしています」と話を続ける。
響をベースにしたナチュラルなカクテルを2つ披露してくれた。1つはオレンジを合わせた「橙響」、そしてもうひとつが「響峰」だ。いずれもとにかくシンプルである。響のフルーティさ、余韻の深さなど素材の良さを引き出す、という氏の言葉をそのまま体現している。
ところで、このバーの開店時間は午後3時である。
「3時から営業していると、おもしろいことに、時間とともにいうか、明るさに応じて、お客さんの望むものが変わってきます。3時は炭酸系や泡モノが、6時くらいからウイスキーなどの水割りに、夜が更けるとストレートになったりします。その日のお客さまの気分や好みに合わせた2杯目、3杯目を、新しい飲み方の提案なども交えながら提供していきたいですね」
もし、この店を訪れることがあれば、ぜひこう言ってみてほしい。
「バーテンダーのお任せで」
響愁〜ノスタルジア〜
響をベースに、赤ワインを組み合わせた余韻が残るカクテル。響を半分以上、クレームドペシェ、登美の丘、カクテルレモンと合わせてシェイクする。最後にレッド・チェリー、デンファレ、ミントの葉を飾る。
TOKYO(橙響)
まず響と蜂蜜をドライシェイクし、蜂蜜をしっかりと溶かす。そこに檸檬と刻んだオレンジ、クラッシュドアイスをいれて、再びシェイク。タンブラーに注ぎ込むロングカクテル。ウイスキーの味わいと酸味のマッチングが良く、ぐいぐい飲める。カクテル名は世界に発信するカクテルというイメージで、東京から発想されたものだ。
響峰
巨峰と響を合わせてミキサーにかける。それを濾して皮などをとりのぞき、シェイカーへ。シェイクして冷えたらワイングラスへ注ぐ。素材そのものが生かされており、フレッシュかつ、響の余韻が心地よい。巨峰が旬の秋口においしく楽しめるカクテルだ。