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ホール・オペラ コジ・ファン・トゥッテ

三菱UFJ証券 SPRING OPERA
サントリーホール モーツァルト&ダ・ポンテ三部作 2008-2010
ホール・オペラ® モーツァルト:コジ・ファン・トゥッテ
(全2幕・日本語字幕付)
2010年3月14日(日)16:00開演、3月17日(水)18:30開演、3月20日(土)16:00開演

「男ってみなこうしたもの?」

高樹のぶ子(作家)

 コジ・ファン・トゥッテ「女はみなこうしたもの」
 だってさ。んまあ、何て失礼な。
 男達二人が、自分たちの恋人の貞節を試そうとて、大芝居を打つ。戦争に行ったふりをして、留守中の彼女たちに、別の男に成りすまして言い寄るのだから。
 最初は「岩のように動かず(アリア)」貞節堅固であった彼女たちも、思いがつのって服毒自殺、なんて芝居をされたり、女中にそそのかされたりするうち、動揺し、元彼を裏切って、新しい彼と結婚しようとする。
 自分たちで仕掛けていながら、彼女たちの不実をなじり怒る、という、誠に男の身勝手なお話である。
 そこでこのオペラのタイトル、「女はみなこうしたもの」が出来たわけだが、全くもって、「男ってみなこうしたもの?」と文句の一つも言いたくなる女性の観客は多いだろう。
 いえいえ、男というものは、愛していればこそ相手の気持ちを確かめたくなるもので、などと、言い訳するのだろうか。
 けれどこうした恋人達の心理は、今も昔も変わらない。愛するゆえに、どうにかして相手の愛の深さを確かめたくなるのだ。
「・・ねえ、愛しているって言うけど、どれくらい?」
「君の愛の、倍ぐらい」
「え?たったそれだけ?」
 なんてね。
 秤に乗せられないものを、無理矢理乗せたこのオペラ、モーツァルトの代表作品の一つとして人気があるのは、やはり不変の恋愛心理を描いているからに違いない。
 前回はサントリーホールで『ドン・ジョヴァンニ』が上演された。円形に造られた舞台が、一方向からの鑑賞では不可能な奥行きを見せていた。今回の『コジ・ファン・トゥッテ』はどうだろう。『ドン・ジョヴァンニ』で色気のある悪が匂い立ったマルクス・ヴェルバも再来する。

  • ホール・オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』の衣裳スケッチ


【インタビュー】

マルクス・ヴェルバ
――モーツァルト三部作すべてのバリトン役をやれるのは、歌手冥利に尽きます。

――今回の『コジ・ファン・トゥッテ』は、「モーツァルト&ダ・ポンテ」シリーズの完結編となります。ヴェルバさんは、ニコラ・ルイゾッティ指揮&ガブリエーレ・ラヴィア演出のこのシリーズ前二作ともに出演され、素晴らしい歌唱と卓越した演技で私達を魅了してくだいました。

  二人とも共演はこれが初めてでしたが、この二人のコラボは歴史的だと思います。一緒に仕事をすることができて、幸運だと思っています。
 ニコラのように最初の瞬間からこんなに音楽的に分かりあえて気持ちよく歌える指揮者は少ないし、彼が指揮台に立っていると何事も起こらないという確信があって、それだけで安心していられます。
 ラヴィアは現代イタリアの最高の俳優兼演出家です。僕は音楽大学卒業直後にミラノでストレーレル演出の『コジ・ファン・トゥッテ』に抜擢され、この世紀の演出家から演技の基本を学びましたが、ラヴィアもまた俳優としてストレーレル演出の幾多の舞台に出演していますので、ラヴィアの演出方法はよくわかります。『フィガロの結婚』の演出は絶妙だったし、『ドン・ジョヴァンニ』では、どんなに舞台設備が整った劇場であっても、あの“石像の場”の演出は至難の業なのに、見事に解決して完全な舞台を作りだしていました。

――演じる立場として、ホール・オペラという形式はいかがですか?

 普通の劇場と違って、オーケストラとの距離が近いので、自分の声がオケの音に混ざって響いてくるという体験をした時はゾクゾクしました。これが、作曲家が意図した音楽なんだと!普通のオペラハウスではオケ・ピットの音が舞台には届かず自分の声しか聞こえてこないこともあるのです。これでは作曲家が書いた音楽を自分では体験できないのです。しかし、ホール・オペラの音楽的成功には、指揮者の手腕が必須でしょうね。その点、ニコラは絶対的に信頼できるので安心です。


  • ホール・オペラ『フィガロの結婚』アルマヴィーラ伯爵(2008年)


  • ホール・オペラ『ドン・ジョヴァンニ』ドン・ジョヴァンニ(2009年)

――『コジ・ファン・トゥッテ』のグリエルモ役は、前回のドン・ジョヴァンニとはまったく性格の異なるキャラクターで大変興味深いです。この役の観どころは?

 男としてのキャラクターを考えると、グリエルモはまだ女性に憧れと恋心を持つ初々しい若者。『フィガロ』の伯爵は、大恋愛をして結ばれた夫人に飽きて他の女に目を移す浮気男。そしてドン・ジョヴァンニに至っては、その頂点で恋愛などにはもうすでに興味がないという男。そんな意味で、グリエルモは若々しくロマンに満ちていて僕は好きな役です。ただし、高い音でのパサッジョ(注:低音から高音に上がっていくとき声が出しづらくなる通過音のこと)の部分が多いので、歌唱的には一番歌い難い。伯爵は徐々に声を出せるように作曲されているし、ジョヴァンニは歌唱的には一番楽なんですよ、僕にとっては!
 昔、ストレーレルの演出で歌ったことのある『コジ』を、ラヴィアがどう演出するか楽しみです。彼は人間の心理や表情を演出に描きだすことの名人なので、僕からどんなグリエルモ像を引き出してくれるか、とても期待しています。
 僕の歌手人生にとって、このモーツァルトの三部作は運命的な作品です。この三部作すべてのバリトン役をやれるのは歌手冥利に尽きます。何といってもオペラの中の最高傑作中の傑作ですから、いつまでも歌っていきたいと思ってます。

――共演者についてお聞かせください。

 三作全部に出演しているのは、エンツォとセレーナと僕の3人です。エンツォは今回のドン・アルフォンソ役が彼の性格に一番合っているのではないかな。彼はプライベートでも哲学的な人物ですからね。
 『コジ』のフィオルディリージという役は、モーツァルトが書いたソプラノの役の中で音楽的にも歌唱的にも一番難しい役だと思うので、セレーナだったら理想的ですよ。人一倍美しい声の持ち主で、テクニックも抜群だから。
 ドラベッラ役のニーノ・スルグラーゼは、7,8年前にBBCの“singer of the world”という600人もの参加者が集うウェールズでの声楽コンクールで一緒だったので、よく知っています。本当のメゾの声を持つ素晴らしい歌手です。デスピーナ役は、去年ツェルリーナを歌ったダヴィニアですよね。テノールのデムーロとは、初共演ですが、ニコラとラヴィアが選んだ人なら、きっと凄い歌手なんでしょうね。声を聴くのが楽しみです。

眞鍋圭子(サントリーホール エグゼクティヴ・プロデューサー)

  • ホール・オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(2009年)より

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