No.SBF0198  (2014.9.11)

サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
サントリー食品インターナショナル株式会社

調査・研究開発

コーヒーの香味に影響するコーヒー果実の熟度と
生豆に含まれる「トリプトファン」が、
高い相関性をもつことを世界で初めて解明
― The 25th International Conference on Coffee Science
(第25回国際コーヒー科学学会)で発表 ―


 サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社(社長:有代雅人、東京都港区)は、九州大学・基幹教育院 割石博之教授らおよびハワイ農業研究センター(Hawaii Agriculture Research Center、以後HARC)長井千文博士らとの共同研究により、コーヒー生豆に含まれる必須アミノ酸「トリプトファン※1」がコーヒーの果実の未成熟度を予測するマーカーとなることを世界で初めて確認しました※2。今回、さらに「トリプトファン」の焙煎後の生成物が、コーヒー飲料の香りや味わいに与える影響を確認し、The 25th International Conference on Coffee Science(第25回国際コーヒー科学学会・期日:2014年9月8-13日・於:コロンビア アルメニア)にて発表しました。

※1 必須アミノ酸のひとつ。トリプトファンは植物成長ホルモンであるオーキシン等の前駆体化合物として知られている
化合物(図1)。
※2 科学論文誌PLoS ONE 8(8):70098にて発表。(2013年8月)

▼発表演題

TRYPTOPHAN IN Coffea arabica GREEN BEANS DECIDES THE COFFEE FLAVOR QUALITY.

▼発表者

岩佐恵子*、瀬戸山大樹**、瀬田玄通*、清水広朗*、藤村由紀**、三浦大典**、割石博之**、
長井千文***、中原光一*
* サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
** 九州大学・先端融合医療レドックスナビ研究拠点
*** ハワイ農業研究センター(HARC)

<研究の背景>
コーヒーの香りや味は焙煎や抽出など、様々な要素によって決まりますが、最も重要な要素はコーヒー豆そのものの品質です。一般にコーヒーの風味は収穫時の果実の熟度に関連することが知られています。これまでサントリーでは、高精度なメタボロミクス※3技術を用いて生豆中に含まれる数千以上の代謝物を解析し、アミノ酸の一種であるトリプトファンがコーヒー果実の熟度に高い相関性を持つことを世界で初めて発見しました。今回、さらに研究を進め、生豆を焙煎することによってトリプトファンが実際にコーヒーの香りや味わいに与える影響について検証を行いました。

<実験の内容>

1) パイロライザーと呼ばれる熱分解装置を用いて、試薬のトリプトファンにコーヒーの焙煎と同じ230℃10分の熱分解反応を行い、生成した化学成分をGC-MS※4によって解析しました。
2) ハワイ農業研究センター(HARC)の試験農場で収穫した4段階の熟度(未成熟、半熟、熟、完熟)のコーヒー果実から得た生豆をLC-MS※5、焙煎豆をGC-MSによって測定し、生豆中のトリプトファンと焙煎豆中の熱分解物の含有量について比較解析しました。
3) トリプトファンの熱分解物を実際にコーヒー抽出液に10~100ppb添加し、専門パネラー6人による官能評価によって品質への影響を確認しました。
  ※3 代謝物(メタボライト)を包括的・客観的に解析すること。代謝物は植物や動物の細胞の生命活動によって生産される化合物であり、メタボロミクスは微量な化合物も網羅的に解析対象とする。
※4 Gas Chromatogram-Mass Spectrometryの略語。日本語名はガスクロマト質量分析。混合物を気体(ガス)にしクロマトグラム法を用いて分離し、分離したものを質量分析器で検出することで定性・定量を行う分析手法。
※5 Liquid Chromatogram-Mass Spectrometryの略語。日本語名は液体クロマト質量分析。固定相と移動相との親和性の差を利用して化合物を分離し、分離したものを質量分析器で検出することで定性・定量を行う分析手法。

<結果>
実験1)において、トリプトファンの熱分解物として、インドール※6、及び3-メチルインドール※6(別名:スカトール)が生成することが明らかとなりました(図2)。
実験2)において、未成熟な生豆ほどトリプトファンが多く含まれ、同様に未成熟な焙煎豆ほどインドール、3-メチルインドールの含有量が高く、両者には高い相関性があることが明らかとなりました(図3)。
実験3)において、インドール、3-メチルインドールをそれぞれ10ppb、100ppbずつコーヒー抽出液に添加した官能評価により、不快臭、不快味が高まることを確認しました(図4)。

※6 いずれも腸内ガスに含まれる悪臭の原因物質として知られる有機化合物。腸内ではバクテリアがトリプトファンを分解して生成する。非常に微量ではジャスミン様の花の香りを呈する。

(図1)(図2)

(図3)

(図4)

<結論および今後の期待>
果実の熟度がコーヒーの風味に影響を及ぼすことは業界で広く知られています。一般に未成熟な果実から得られたコーヒー豆は未成熟豆と呼ばれ、混入することで異味異臭をもたらす欠点豆の1つとして知られています。今回の一連の研究から、生豆中のトリプトファン含有量が果実の未成熟度を予測する有効なマーカーであることをサントリーが世界で初めて発見し、そのトリプトファンの熱分解物が未成熟豆における異味異臭の直接的な原因となることを解明しました。これらの知見をもとに、トリプトファンをマーカーとした未成熟豆の混入を防ぐ技術の開発や、不快臭のもとであるインドール類を除去する技術の開発により、コーヒー飲料の品質向上が期待されます。
サントリー食品インターナショナルグループは、今後もサントリーグローバルイノベーションセンター株式会社と連携し、本研究成果を飲料・食品の製造・販売事業の分野の付加価値創造に活用していきます。

▼サントリーグローバルイノベーションセンターホームページ
  https://www.suntory.co.jp/sic/

▼サントリー食品インターナショナルホームページ
  http://suntory.jp/sbf/

以上

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