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interview

さまざまな技法

行政に必要な記録用紙としての需要とともに、国家仏教の隆盛に伴う写経が、紙の発達を促します。文字の書きやすい平滑な表面、後世まで残せる耐久性、さらに写経を荘厳するために紙そのものを装飾する技法が工夫されます。赤や青、紫などの色をつけたり、金銀箔や色付繊維を漉き込む、水の流れを使って色模様をつける、などの華やかな装飾。それはやがて平安時代の貴族文化で花開き、『歌仙歌合』(国宝)に見られる飛雲という技法や、《貫之集下(つらゆきしゅうげ)断簡(石山切)》(重要文化財)に見られる王朝継色紙など、さまざまな料紙装飾を生み出します。
「紙を漉く際に加える糊状の液(トロロアオイ[アオイ科の植物]の粘液)の中で素材同士を反発させる性質をうまく利用し、水の流れの変化を活かして、無理のない自然な模様を表現する。これも和紙の特徴です」。
江戸時代になると、産業として各藩で製紙が行なわれ、地域の特徴を表わす紙が作られます。それら各地の紙を収集した《百工比照(ひゃっこうひしょう)》(重要文化財)もまた、本展の見所のひとつ。「加賀の前田家五代綱紀が学問のために集めた工芸諸分野のさまざまな製品、技法の見本帳です。日本の古い紙を見ることのできる、たいへん貴重なコレクションです」。

国宝
歌仙歌合
平安時代(11世紀)
和泉市久保惣記念美術館蔵

歌聖人麿をはじめとして30人の歌仙の歌を書き写し、料紙には紫と藍の2色に染められた繊維を雲形に漉き込む「飛雲」が表わされている。

重要文化財
貫之集下断簡 石山切
平安時代(12世紀)
和泉市久保惣記念美術館蔵

胡粉引きや雲母刷りに銀泥による蝶、折枝や小鳥を散した面と、藍二色の染め紙を切り継いだ面の対照が鮮やかな断簡。


多様な和紙の世界

森脇家雛形資料
文政年間(1818〜1829)頃
個人蔵

武家社会に採り入れられた礼法としての折形を実際に形にした雛形集の雄蝶雌蝶。めでたい席で銚子や提子に飾り付けられて用いられる。

梅に熨斗(のし)蝶模様小袖
江戸時代(19世紀)
サントリー美術館蔵

梅の立木に左記の折形の意匠による雄蝶雌蝶を配した小袖。蝶は変態し化生するさまから回生と復活の象徴と見られ吉祥の模様とされる。


文様替結び文形香合
明治時代(19世紀)
大阪市立美術館蔵蔵

書状を長く折り畳み、結び目を作り渡した結び文を模した香合。菊花、紗綾形、流水に片輪車など細かい模様が配されている。

さぬのちがみのをとめ
鹿児島寿蔵
1960年
東京国立近代美術館蔵

平面だけでなく、立体造形の素材として使われるのも、繊維が絡んだ強さとしなやかさをもつ和紙ならでは。
造り花や紙衣(かみこ)など、宗教的な祭事や神饌(しんせん)に使う造形を、清らかな紙からつくるのも、日本人の美意識や価値観と和紙の特質が相まって生まれたもの。
イサム・ノグチによる《2mのあかり》、壊れやすいという紙のイメージを払拭した紙塑(しそ)人形、絹糸と和紙(奉書紙)を緯糸経糸に組み合わせた佐賀錦など、現代の作家たちによる和紙の新しい展開もご覧いただけます。
千年以上の時を経て伝わってきた和紙。日本の風土、日本人の「生活の中の美」そのものと言っても過言ではない和紙の世界。「和紙を見直すことで、過去から現在に続く日本の暮らしを再発見していただければ」と、本展を企画した学芸員の丹羽理恵子さん。「和紙のありとあらゆる可能性がわかる展覧会です」とおっしゃる柳橋先生。ゴーギャンも和紙に描いていた、イタリアの《最後の晩餐》の壁画修復には典具帖紙(てんぐじょうし)という和紙が使われている……など和紙の魅力を語る柳橋先生のお話は、尽きることがありませんでした。

Profile
柳橋 眞 Makoto Yagihashi

1934年、茨城県出身。東京藝術大学で芸術学を専攻。1963年、専攻科修了後、文化庁無形文化財調査官として、手漉き和紙などの伝統技法を調査する。研究成果を『手漉和紙(越前奉書・石州半紙・本美濃紙)』(文化庁)や『和紙−歴史・風土・技法』(講談社)に著す。輪島漆芸美術館長、金沢美術工芸大学教授を歴任。現在、同大学名誉教授。著書に『紙すきの里』(牧野和春氏と共著、牧野出版)、『石州半紙』(思文閣)など


特別講座のお知らせ

一言で和紙といっても、その姿はさまざまです。
漉きあげたままの白く清らかな和紙「生紙(きがみ)」を素顔とすれば、赤や青などの色をつけた染め紙や、金銀箔などを貼ったり、水の流れで色模様をつけるなどの華やかな料紙装飾を施した和紙は、美しい化粧顔といえるでしょう。
今回の講座では、長年、文化庁で手漉き和紙等の伝統技法を調査研究されその保護に取り組んでこられた柳橋 眞氏と、楮作りから一貫した手漉き和紙づくりを行い、当館の「光壁」の和紙も手がけられた和紙職人の小林 康生氏という和紙のプロフェッショナルお二人をお招きし、和紙と洋紙との違い、「生紙」のできるまでの原料や製法など、和紙にまつわるさまざまなお話をお伺いします。

特別講座(1)「和紙の素顔・化粧顔」

日時: 2009年10月3日(土)14:00〜15:30
応募締切: 2009年9月19日(土)
講師: 柳橋眞氏(金沢美術工芸大学名誉教授)/小林康生氏(越後門出和紙代表)
対象: 一般
聴講料: 1,000円(別途要入館料)
申し込み方法: 当館ホームページからお申込みいただけます。

小林康生氏


文・構成:内海陽子+編集部
インタビュー撮影:©碇雅美子

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