美を結ぶ。美をひらく。

美しい、と感じるこころは、だれもがもっています。私たちは、毎日の生活の中で美を味わい、愉しんできました。絵や彫刻だけが美ではない。日常使う道具や調度に美を感じる。庭の石や植栽にも、人の立ち居振る舞いにも美を感じる。この国独特の美に対する感受性に守られ、育てられてきた名作、名品があります。そんな「生活の中の美」を、ひとりでも多くの方に愉しんでいただきたい。それが、1961年の開館以来、変わることのない私たちの思いです。
「美を結ぶ。美をひらく。」これが、新しいサントリー美術館のミュージアムメッセージです。たとえば、古きものと新しきものを結ぶ。中世や近世、近代といった時代の枠組みに縛られずに美と美を結ぶ。たとえば、東と西を結ぶ。国や民族といった文化の境界にとらわれずに美と美を結ぶ。自由に大胆に結ぶことから、新しい発見がひらかれる。知的感動がひらかれる。結ぶことで人と美に新しい関係をひらいていきたい。「結ぶ」と「ひらく」。ふたつの言葉にこめた思いを、私たちのこれからの活動の柱といたします。

美術館について

サントリー美術館は、1961年、東京・丸の内に開館し、1975年には赤坂見附に移転、2007年に現在の六本木に移転しました。
開館当初より「生活の中の美」を基本テーマとした企画展示や作品収集を行い、その収集方針のもとに集められた収蔵品は、絵画、陶磁、漆工、染織など日本の古美術から東西のガラスまで、国宝1件、重要文化財15件、重要美術品21件を含む約3,000件に及びます。
今後も日本美術を中心に美術の普及・発展に向け活動を進めていきます。

ロゴマーク

サントリー美術館のミュージアムメッセージ「美を結ぶ。美をひらく。」をかたちにしました。アートディレクターは、葛西薫氏、ナガクラトモヒコ氏(共に株式会社サン・アド)。漢字「美」から変化したひらがなの「み」をモチーフとしてデザインしています。中国より伝来した漢字から生まれた日本独特の仮名文字に、現代のデザイン性を加味して作られた文字は、古代中国から日本、現代と時空を超えた新しい世界を感じさせ、ふさわしいものになっています。この「み」は当館が所蔵するお伽草子の優品「浄瑠璃絵巻」(室町時代)の詞書(ことばがき)を出典としています。

  • 葛西薫(アートディレクター)

    1949年札幌生まれ。(株)サン・アド。サントリーウーロン茶、ユナイテッドアローズなどの長期にわたる広告制作のほか、近作に、SUNTORY新CIのディレクション、TORAYACAFEの一連のグラフィックワーク、鹿島建設TORANOMONTOWERSのサイン計画などがある。1999年ADCグランプリ、1998年毎日デザイン賞、1999年講談社出版文化賞ブックデザイン賞など受賞。

  • ナガクラトモヒコ(アートディレクター)

    1956年東京生まれ。(株)サン・アド。そごう・西武百貨店「夏市・冬市」の広告。NTTDoCoMo「i-MODE」、RECRUIT、NHK「からだであそぼ」などのロゴタイプデザイン。JAGDA年鑑、TCC年鑑、猪本典子著「修道院のレシピ」などのブックデザインなど。1990年日本グラフィックデザイナー協会新人賞、1992年、94年、96年朝日広告賞部門賞、2006年装幀コンクール「日本書籍出版協会理事長賞」など受賞。

ミュージアムカラー

代表的な収蔵品の中によく見られる色としてもゆかりの深い藍色を基本色としました。この色を基調に、ロゴマークをはじめとするコミュニケーションツールを展開しています。

建築

美術館の設計を手がけたのは建築家・隈研吾(くまけんご)氏。めざしたのは「都市の居間」としての居心地の良い美術館です。日本の伝統と現代を融合させた「和のモダン」を基調に、安らぎと優しさに溢れた空間を実現。外観は白磁のルーバー(縦格子)に覆われ、透明感すら感じさせます。館内には、木と和紙を意匠に用い、和の素材ならではの自然のぬくもりと、柔らかい光を表現しています。また、館内の随所で床材にウイスキーの樽材を再生利用しています。
展示室は3階と4階の2層からなり、3階には天井高9.3mの吹き抜け空間を設けました。隣の展示室との間は可動壁で隔てられ、襖や障子のように開け閉めすることで、多目的な空間利用が可能になっています。また、反対側の巨大なガラス面には、2枚の格子をスライドさせて光を調節する「無双格子(むそうごうし)」を設置。外光を遮断した展示空間から、緑溢れる外景を楽しむ憩いの空間まで、さまざまな演出が可能です。6階には、イベントを行うホールや、旧美術館から一部を移築した茶室「玄鳥庵(げんちょうあん)」を備えています。3階にはミュージアムショップとカフェが一体化したshop×cafe(ショップバイカフェ)も併設、観覧後に余韻を楽しんでいただく施設の充実を図っています。

ー 都市の中の「居間」としての美術館 ー隈 研吾

都市の中の「居間」として、この美術館建築を構想した。背景には、都市の室内化という現象がある。通信と移動のテクノロジーが、かつて物と物との間に存在していたすべての距離を消滅させ、都市全体を一つの大きな家の「室内」へと変貌させつつある。その大きな家の中には廊下はたくさんあるし、食堂もたくさんあるが、ゆったりとくつろげる「居間」はない。時間がゆっくりと流れ、親しい人と人、人と物との間で、くつろいだ会話が成立するような「居間」は見つからない。サントリー美術館が東京というノイジーな都市の中で、そんな静かな「居間」となって欲しいという想いで、図面をひいた。
20世紀の人々が美術館に求めていたのは、大げさな「都市のモニュメント」であったが、21世紀の人々が求めるのは、安らげる「居間」である。そして実は、早くから「生活の中の美」をテーマとして活動してきたサントリー美術館ほど、「居間」に相応しい美術館はない。この美術館は、世界の新しい潮流の先端にあって、あるべき姿を示すだろう。
「居間」の建築は、大げさなこけおどしであってはならないと考えた。生活で慣れ親しんできた、人に優しい素材―例えば肌に優しい白磁、湿度を保つ桐、樽に使われるホワイトオーク―を用いて、この「居間」は構成されている。日本の伝統的な窓の意匠である「無双格子」にヒントを得た光の調整装置を公園の緑の前面に設けた。この装置が外の光と風景を和らげて、「居間」の室内へと運んでくる。日本人は、こんな装置をうまく使って、四季の流れ、時の流れを楽しんできた。
美しいアートと、優しい素材と、柔らかな光に包まれて、ゆっくりと時間が流れ出す。それは、アートと人間との間の新しい関係性を人々にじっくりと味わってもらうための場所となるであろう。

隈研吾(建築家)

http://kkaa.co.jp/