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研究助成

成果報告

2007年度

18-19C日本・韓国思想における近代の始源・古層(独自の時間・空間認識)の分析を通じて、日本・韓国の新たな学術基盤の共有をめざす国際的・学際的研究

東北大学大学院文学研究科 准教授
片岡 龍

 本研究の背景には、次のような問題意識がある。日本の韓国に対する学術的関心は、植民地時代の傷跡を抱えながら、1970年代ころに欧米を中心とした近代化への反省が始まり、アジアに目を向けた。しかし、そのころ韓国文化に関心をもった世代の研究者が、日本ではそろそろ研究の第一線から退く時期に当たっている。また80年代ころからのアジアを含むグローバル化に伴い、韓国に対する学問的関心の世代継承がうまくできず、その結果、一方では「韓流」のような関心のあり方、もう一方ではたんに、世界の一地域としての無機的な専門研究の二極に分化している。
 (1)(2)とも、これらの問題を克服する目的で企画された。

 (1)のシンポジウムは、一・二日目は、基調講演、導入討論、「学問方法論」・「科学思想」・「政治思想」・「宗教思想」の各セッション、全体討論という構成を取り、きわめて専門的な角度から、18〜19Cの日本・韓国の学術を比較し、欧米とは異なる特色をもった東アジアなりの近代の可能性に光を当てることで、現在の日韓両国の抱える精神的問題を考える素材を広く社会に提供することをめざした。その中でも特に、前近代の思想の評価をめぐって、「科学思想」のセッションで、川原秀城教授(東京大)と申東源教授(KAIST)を中心に、高度な学術的な応酬が行われたことは、本研究の目的に即して、大きな意義をもった。
三日目は、平泉にエクスカーションを行い、古代・中世の宗教的雰囲気に触れ、また安重根の顕彰碑のある大林寺に立ち寄り、近代の両国の悲劇を再確認した。なお、シンポ開催中、日韓の参加者が、同一の宿所で寝食をともにし、東アジアの過去・現在・未来について率直に語り合えたことは、貴重な体験だった。

 (2)の座談会は、ワークショップの形式をとり、さまざまな行事を企画した。これは、2008年2月のサントリー文化財団における中間報告で、その他の研究グループの魅力的な活動報告に刺激されたことが大きかった。
第一日目は、写真家の藤本巧氏の講演が行われ、1960年代後半から韓国を撮影し続けている立場から、この半世紀の韓国社会の変化について参加者とともに談話がもたれた。
二日目は、宗教・政治のセッションで、それぞれ基調提題→討論→座談の流れで、対話を進めた。その後、国学振興院に所蔵されている版木や同施設に附属する儒教博物館等を見学した。
三日目は、早朝に若手の研究者を中心に、日韓の伝統的な漢籍の読みに関する講読会を開催。学問セッションでの談話。その後、知礼芸術村に移動し、夜の茶果会において、最後のセッションになる総合討論(反省会)を行った。
四日目は、午前中に安東市の書院などの史跡を見学し、その後、日本側参加者はソウルの庶民遺産ピマコルの撮影、慶州史跡探索などのグループに分かれ、それぞれ行動した。

 今後の課題としては、これらの成果をどのような形でまとめ、公表することで、次の展開へとつなげていくかにある。現在既定の、また予定されている成果の公開は、以下のとおりである。
(a)2007年12月、茶山学術文化財団刊行『茶山学』11号にシンポジウムに関わる論文掲載(韓国語・日本語)。
(b)近日中に、琴章泰ソウル大教授『茶山実学探究』の日本語訳を刊行予定。
(c)2008年12月、茶山学術文化財団刊行『茶山学』13号にシンポジウム等に関わる論文等掲載予定(韓国語・日本語)。
(d)近年中に座談会に関わる一般向け図書、あるいは雑誌刊行予定。

2008年8月
(敬称略)

サントリー文化財団