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研究助成

成果報告

2006年度

東アジアにおける条約改正の連鎖と規範共有
― 日中台共同研究

北海道大学大学院法学研究科助教授
川島 真

 19世紀後半から20世紀前半にかけて、日本や中国など列強以外の国々の外交目標は、条約改正を実現し、文明国として国際社会に参加し、自らの国際的地位を高めつつ、列強の一員となること(強国化、富国化、大国化)であった。従来、こうした状況については、“近代化比較論”の観点から、その成否(日本=成功、中国≠失敗)、時期(日本=早、中国=遅)という枠組みの下に論じられてきた。しかし、本研究ではこれを成功失敗などといった二分法ではなく、(1)東アジア世界が直面した国際規範とその調整と相互関係、(2)東アジアにおける新たな規範の相互影響下での共有過程、(3)その過程における相互認識の変容、などといった観点から捉えなおすことを視野に入れたものである。具体的には、以下の二点をおこなうこととした。
(1)日中間(シャムも視野に入れる)における条約改正の連鎖を行政権回収をも含めて検討
(2)それが東アジアの共通の規範形成に与えた影響を明らかにすること
これらを明らかにすべく、川島・岡本・五百旗頭を中心に、茂木を加え、四名を中心に若手研究会を組織し実施してきていた近代中国外交史研究会(申請段階ですでに4回開催)を基礎として研究会を三回開催し、また日本の国際政治学会や中国の学会でも議論を重ねてきた。その結果、以下の知見が得られた。第一に、19世紀までの東アジアには冊封・朝貢のほかにも、管理貿易の下に置かれた「互市」があり、その「互市」から最終的には「通商」という領域が出現し、そこに「外交」の契機があったこと。第二に、日本における行政権回収の試みなどが、有賀長雄らを通じて中国にも伝えられ、特に1920年代以後の中国における条約改正論に影響を与えたこと。第三に、光緒新政の時期に日本や世界との規範の共有が見られながらも、それは同時に「伝統」を記憶していくプロセスでもあり、自らを大国として想像するための自画像が形成された。第四に、さまざまな規範を内在化する過程で、既存の諸制度の基礎の上にそれらを受け入れたため、日中それぞれにおいて相違点も多々見られること。
 これらによって、従来のような日中近代化論的な論調ではない、あらたな東アジア国際政治史的な問題提起ができるものと考えている。
 これらの成果を踏まえ、以下のような書籍を刊行すべく、研究会の参加者が論文を執筆し、現在のところ初稿が完成したところである。だが、出版計画の中で、科学研究費の出版助成を申請することから、9月末を第一締切りとした。刊行予定は2008年夏までであり、科学研究費の結果が出るまでの間、引き続き研究会を開催し、原稿を修正していくこととしたい。そのため、経費を留保し、来年の三月末の入稿まで本共同研究を継続していくことを希望する。
 今後の課題としては、第一にシャムやトルコなどとの比較、第二に大韓帝国における状況、そして第三に20世紀前半の部分である。これらは、本書の刊行の後に継続して論じていきたい。

岡本隆司・川島真編『中国近代外交史研究』(仮題)
総論
第1部 「夷務」から条約関係へ
第1章 「互市論─清代から両次アヘン戦争へ」(廖敏淑)
第2章 「日清修好条規の締結をめぐって」(森田吉彦)
第3章 「清末の日清関係と条約改正」(五百旗頭薫)

第2部 「洋務」の対外関係
第4章 「中華帝国の近代的再編」(茂木敏夫)
第5章 「日清戦争以前の清朝在外公館」(箱田恵子)
第6章 「1880年前後の領事派遣論」(青山治世)

第3部 「外務」の胎動
第7章 「日清戦争講和における清朝の政治過程と対外政策」(谷渕茂樹)
第8章 「日清戦争後の清韓関係と韓国の独立」(岡本隆司)
第9章 「清朝外務部の時代」(川島真)

(敬称略)

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