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サントリー学芸賞

選評

政治・経済 1985年受賞

青木 昌彦(あおき まさひこ)

『現代の企業』

(岩波書店)

1938年生まれ。
東京大学経済学部卒業。ミネソタ大学Ph.D取得。
ハーバード大学助教授、スタンフォード大学経済学部助教授などを経て、現在、スタンフォード大学経済学部教授、京都大学経済研究所教授(兼任)。
著書:『組織と計画の経済理論』(岩波書店、日経・経済図書文化賞)など。

『現代の企業』

 いわゆる「日本的経営」に対する最近の関心は世界的なひろがりをもっており、そのようなたかまりには十分な根拠がある。つまり日本的経営と呼ばれているものは、単なる日本文化の特異性の産物ではなくて、広く産業社会一般に通用する意味を含んでいる。しかし凡百の日本的経営の文化論的解説は、このような普遍的合意をかえって曇らせてしまっているのが多い。
 青木昌彦氏の著書:『現代の企業』は、社会科学者の専門的批判に十分耐えうる厳格さをもって、「日本的経営」の中に含まれている普遍的な意味を明確に定式化した世界最初の労作である。標準的な経済理論によると、企業は利潤を極大化する組織、すなわち株主という利潤の受取り人が最終の支配者である組織と考えられてきた。しかし青木氏は、この伝統的前提に代えて、株主だけでなく従業員も広い意味の利潤(組織準地代)の分配に与るという仮説を提出する。株主と従業員との間では利潤分配上の交渉が行なわれ、経営者がコーディネーターとなって協調型ゲームの形で合意が達成されると、青木氏は想定し、そこから雇用の長期性を始めとした様々の企業行動特性を鮮やかに導出してみせる。このような青木モデルは、これまでにない新しい企業理論という意味をもっている。
 青木氏のこの労作は、一朝一夕にしてなったものではなく、ましてや「日本的経営」ブームから生まれたものではない。青木氏は久しく伝統的企業理論・市場理論を超える数理的モデルの発展に力を注いできており、今回の著作はその連作中の第三作であり、長年の努力の一つの応用的成果である。
 実はこの著作は英語で書かれたものを原本として、著者自身が翻訳されたものである。英語版の形で、青木氏の理論は既に広く世界的に注目をひいており、今後、日本人でない研究者の間からも、青木氏の示した方向で仕事を試みる人々が現われてくるだろうと思われる。普遍的な理論枠組の中で、日本社会での経験を把握し一般化するという姿勢は、今後の日本の社会科学者にとって不可欠なものであろう。 青木氏の著作は、このような姿勢の最初のそして成功した試みの一つとして記憶されることになると思われる。

村上 泰亮(東京大学教授)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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