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サントリー学芸賞

選評

政治・経済 1981年受賞

村松 岐夫(むらまつ みちお)

『戦後日本の官僚制』

(東洋経済新報社)

1940年、静岡県生まれ。
京都大学法学部卒業。
京都大学法学部助教授を経て、現在、京都大学法学部教授。

『戦後日本の官僚制』

 「日本国憲法により日本に議会政が実現して約30年である。この間、日本政治の研究は、量・質ともに、進展した。しかし、これらの研究の多くは、政党、圧力団体、選挙、世論などを対象とするものであった。このなかで、日本官僚制の構造特性を、理論的また実証的に、解明した本書は、日本政治論における画期的な研究業績である。
 本書のメリットは、とりあえず、三点挙げられる。その第一は、実証的な分析法の採用とその成果である。国会議員101名、高級官僚251名の面接調査の回答データに、著者はまず高級官僚の社会的出身とキャリアを解明する。ついで、高級官僚の「役割選択」を手掛りに、一方では高級官僚自身のセルフ・イメージ、他方では政治構造における官僚制の役割を説明する。この間、興味津々たる分析結果が次々に提示される。こうして、議会政のなかの日本官僚制の特性を、著者は、統治における知的要素を担当し、仕事に強い情熱をもち、交渉と調整のうちに、組織としての自律性を実現する統治分担集団と規定する。
 本書のメリットの第二は、日本の政治構造に関する「理論」の提示である。日本国憲法により議会政治が実現し、政党が支配集団となったこと、議会と政党から超然とした「古典的官僚制」が退場したこと、代って、議会と政党の只中で仕事に励む「政治的官僚制」が登場したこと、以上の諸点を内容とする自説を著者は提示し、先行理論を詳細に引照し、批判する。なお、この交替が高級官僚の「役割選択」自体に表現されていること、これが前述の実証的検討の成果のひとつである。
 本書のメリットの第三は、現代政治に関する欧米諸理論の検討である。統治の対象となる生活局面の拡大とそれに伴う官僚制の成長は、現代政治に関して、いわゆる行政国家論など、数多くの官僚制論を生んだ。著者はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツにおけるこうした論議を紹介し、日本官僚制の実績と対比する。そして、日本官僚制の特性の多くが、現代国家に関する「現代理論」によって説明できることを明らかにする。以上のような本書のメリットと学問的な貢献を非常に高く評価したい。

京極 純一(東京大学教授)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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