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No.8442 (2003. 5. 16)
「アラキドン酸(ARA)と脳の健康」に関して
研究成果を日本栄養・食糧学会シンポジウムで発表
― アラキドン酸(ARA)摂取により、学習・記憶能力の低下改善、
高年者の認知応答改善、日内リズムの是正に効果 ―
サントリー(株)健康科学研究所(所長:木曽良信、大阪府三島郡島本町)は、同志社大学文学部(岡市広成教授)、東海大学(榊原学教授)、杏林大学医学部精神神経科(古賀良彦教授)、大阪大学蛋白質研究所(永井克也所長)などと脳内で重要な役割を担う「アラキドン酸」の効能について、共同研究を進めてきました。
その結果、アラキドン酸(ARA)※1を投与することにより、老齢ラットの学習・記憶能力の低下が改善され、またヒトでも高年者の認知応答を改善することが明らかになり、さらに加齢に伴い変調をきたす日内リズムを是正する作用のあることが老齢ラットを用いた実験から明らかになりました。
これらの成果については、日本栄養・食糧学会シンポジウム「長鎖多価不飽和脂肪酸研究の新展開」(5月18日、福岡)で発表します。
今回の発表骨子は、以下のとおりです。
▼発表演題
「生理機能性素材としてのアラキドン酸」
発表者 サントリー(株)健康科学研究所 秋元 健吾
「アラキドン酸は高年者の認知応答を改善する」
発表者 杏林大学医学部 古賀 良彦
「アラキドン酸の生物時計に与える影響」
発表者 大阪大学蛋白質研究所 永井 克也
※1 「アラキドン酸(ARA)」とは
アラキドン酸(ARA)は、脳、肝臓、腎臓など、ヒトのあらゆる組織を構成する主要な脂肪酸で、最近、記憶などの脳の働きに重要な役割を果たすことが明らかにされ、栄養素としてのアラキドン酸(ARA)が注目されるようになりました。通常、アラキドン酸(ARA)は母乳、レバー、卵黄中にわずかに含まれますが、それだけでは不十分で、人は食品からリノール酸を摂取し、このリノール酸からアラキドン酸(ARA)を体内で合成しています。しかし、高年者や乳幼児では酵素の働きが弱いために合成量が低く、アラキドン酸(ARA)そのものを直接補給することが望まれます。
研究の背景
厚生労働省の各種調査によると、老人性痴呆患者数は、2000年の112万人から、2015年には265万人へと倍増するという予測が報告されています。老人性痴呆が進行すると、日常生活や社会生活に支障をきたすために、脳の老化を予防する食品素材の研究が期待されています。
アラキドン酸(ARA)は脳にとって重要な脂肪酸とされていますが、年をとるにつれ、しだいに減少していきます。そこで、アラキドン酸(ARA)の摂取により、脳内アラキドン酸(ARA)量が増加し、さらに老化に伴う脳機能の低下が改善できるかどうかについて動物およびヒトで検討しました。
研究1 アラキドン酸(ARA)含有油脂の学習機能に対する効果
<実験方法>
アラキドン酸(ARA)含有油脂を2ヶ月摂取(40mg/rat/day)させた老齢ラット(1)、対照飼料を摂取させた老齢ラット(2)、若齢ラット(3)に分けて、それぞれの学習機能に対する効果をモリス型水迷路試験※2を用いて、調べました。
<結果>
アラキドン酸(ARA)含有油脂を2ヶ月間摂取した老齢ラット(1)の場所課題学習能力は、若齢ラット(3)より劣りましたが、老齢ラット(2)の学習能力より改善されることが示されました。(図1)
※2 モリス型水迷路試験
モリス型水迷路とは、墨汁をいれた水槽の中に木の台を置いたものです。この台は墨汁のために水面からは見えません。ラットをこの水槽の中に入れると、最初は、水槽の中を泳ぎ回った結果、台を見つけます。これを何回も繰り返すと、ラットは、台のある場所を覚え、台に到着するまでの時間が短縮します。ラットの水泳パターン(台付近に滞在する時間)や台に到着するまでの時間を測定することにより学習能力を知ることができます。
図中のchance levelとは、水槽の中を均等に動き回った時の台付近に滞在する時間のことを差します。ラットが台の位置を覚えていれば、台付近の滞在時間が長くなります。
図1 アラキドン酸(ARA)の学習機能に及ぼす影響
研究2 アラキドン酸(ARA)の高年者の認知応答に対する効果(ヒト)
加齢により脳波事象関連電位応答P300※3の応答の速さは遅くなり、その振幅は小さくなることが知られており、この指標は加齢による認知応答の低下を反映した指標と考えられ
ています。そこで、アラキドン酸含有油脂(アラビタTM40)のヒトの認知応答に対する効果を、このP300を測定することにより検討しました。
<実験方法>
健康な高年被験者20名に対して、アラキドン酸(ARA)含有油脂(アラキドン酸240mg相当量)を毎日1ヶ月間摂取させました。そして、アラキドン酸(ARA)含有油脂を摂取させる前後でP300の応答の速さと、応答の大きさを比較しました。
今回は実験的によく用いられる聴覚オドボール課題を利用して、このP300を計測しました。具的には2種類の音(高音2KHz・低音1KHz)をランダムに提示した際に、たまにしか出てこない(20%)高音を聞いたときに出来るだけ早くボタンを押すという課題作業をさせ、その際の脳の認知応答を脳波計測により測定しました。
<結果>
アラキドン酸(ARA)含有油脂を摂取させた後の被験者は、アラキドン酸(ARA)を摂取させる前と比較して、P300応答の速さが早くなり(図2)、その応答の大きさが大きくなることが確認されました。また、この応答の増加は被験者の血清リン脂質中のアラキドン酸(ARA)量と有意な相関が認められ、有効成分の効果が示唆される結果となりました。つまり、血中のアラキドン酸(ARA)が高いヒト程、P300の大きさの増加が大きかったといえます。このことから、アラキドン酸(ARA)は高年者の認知応答を改善することが明らかになりました。
※3 P300
P300とは、ヒトの認知能力(情報処理能力)を測定する指標です。例えば、ヒトに低い音の中にたまに高い音が混じった課題を聞かせます。そのとき、高い音が聞こえた時にボタンを押すように指示しておきます。ボタンを押した後にはP300という脳波が検出されます。低い音の中から高い音だけを検出するという情報処理過程が、働いたためにP300が検出されたわけです。老化に伴いP300の大きさ(振幅)は小さくなりP300があらわれるまでの時間(潜時)は長くなります。
図2 アラキドン酸(ARA)摂取前後のP300潜時
研究3 アラキドン酸(ARA)の生物時計に与える影響
ヒトは、昼間活動して、夜になると眠るという生活リズムをとっています。この生活リズムは、脳のしこうさじょうかく視交叉上核という部分に存在する生物時計によって調節されています。この生物
時計は、環境の変化等で異常をきたすことがあり、その代表的なものが「時差ボケ」という症状です。また、脳の老化により生物時計の機能が低下することも考えられます。老人性痴呆患者でみられる夜間の徘徊は、生物時計の機能が破綻したためであると考えられます。
ラットの場合、昼間(明期)に眠り、夜(暗期)に活動するという生活パターンをとります。ラットの運動量を測定することにより、生物時計のパターンを知ることができます。また、明暗周期を変化させるとラットの運動量は、新しい明暗周期に同調しようと変化します。新しい明暗周期に適応するまでの日数を調べることにより、生物時計の機能を知ることができます。
<実験方法>
今回は、(1)若齢ラット(8週齢)と(2)老齢ラット(18ヶ月齢)、(3)老齢ラット(22ヶ月齢)を用いて、それぞれアラキドン酸(ARA)を与えたラットと与えていないラットに分けて比較し、生物時計の機能に及ぼすアラキドン酸含有油脂(アラビタTM40)の影響について検討しました。(図3)
<結果>
若齢ラット(1)にアラキドン酸(ARA)を与えても、生物時計が新しい明暗周期に適応するまでの日数には、変化が認められませんでした。一方、老齢ラット(2、3)にアラキドン酸(ARA)を与えると、与えていないグループと比較して、生物時計が新しい明暗周期に適応するまでの日数が減少しました。特に22ヶ月齢のラット(3)で有意な減少が認められました。以上の結果より、アラキドン酸(ARA)に、脳の老化に伴う生物時計の機能低下を予防し、高年者の生活リズムを正常に保つ作用が期待できます。
図3 新しい明暗周期に適応するまでの日数に与える影響
<サントリーとアラキドン酸(ARA)について>
サントリー(株)は1993年に微生物発酵技術を用いて、世界に先駆けて、アラキドン酸(ARA)を高濃度含有する食用油脂の製造に成功しました。この発酵法で作られたアラキドン酸(ARA)を高濃度で含有する食用油脂(アラビタTM40,25)が開発され、実際にヒトが摂取することが可能となりました。
▼(社)日本栄養・食糧学会について
(社)日本栄養・食糧学会は、栄養科学ならびに食糧科学に関する学理および応用の研究についての発表、知識の交換、情報の提供を行うことにより、栄養科学、食糧科学の進歩普及を図り、わが国における学術の発展と国民の健康増進に寄与することを目的としており、医学、農学、薬学、生活科学などの関連する諸学術領域の4,775名の研究者で構成されています。本学会は、昭和22年5月2日に設立され、平成9年5月15日には創立50年を迎えて今日に至っています。
以 上
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