絵・中野直
東京の山からはじまること
「東京にも山がある」という事実を忘れている人が多い。
航空写真で見るかぎり、
東西に長い東京の西側1/3は、山なのに、だ。
東京23区内に住む人にとっては、普段の生活の中で、
東京の山を意識することはあまりない。
東京のまん中あたりの三鷹市に住むぼくでさえ、
東京の山のことを意識することは少ない。
東京の山と言えば、小学校の遠足や、
剣道の合宿で、行ったことが思い出される。
山に登り、川で遊んだ。
こどもにとっての山は遊びの場であり、
普段の暮らしとどうつながっているのか
なんて考えたこともなかった。
大人になっても、
釣やバーベキューなどのレジャーで
山に行く人にとっては、
山は、日常の生活とは切り離された遊びの場だ。
ぼくが
東京の山を暮らしとつなげて考えるようになったのは、
今から10年ほど前、
「住まいの柱」をテーマにした展覧会の企画で、
東京の山に行った時からだ。
東京の山の木で、
木造の住宅をつくることができることを知った。
東京にも山があり、林業があることを実感した。
地産地消という言葉も
このころからなんとなく意識するようになった。
その後、
数年前からスギダラトーキョーという活動をはじめ、
武蔵五日市に月に1回ぐらいのペースで通うようになった。
自宅から歩いて15分ぐらいの中央線の武蔵境駅から
武蔵五日市駅までは、電車で約1時間。
電車の窓から見える景色は、
住宅街から畑が増え、山の中に入っていく。
電車から降りると気温や空気の変化を感じる。
2010年の夏の一日。
この日は、サントリー広報部の川畑弘さんの誘いで、
東京の山に行くことになった。
八王子駅に午前8時に待ち合わせして、
車で山に向かった。
同乗したのは、
サントリーのエコ戦略本部の山田健さんと松倉隆さん。
山田さんの話は、川畑さんから事前に聞いていたので、
どんな人なのか想像をめぐらしていた。
山田さんは、もともとは宣伝部のコピーライターで、
その後、世界のワインやウイスキーの蔵元を訪ね飲み、
本を著し、その道では知らない人はいないらしい。
「天然水の森」プロジェクトは、そもそもは10年前、
山田さんや川畑さんたちによって立ち上げられた。
「水と生きる SUNTORY」という言葉の通り、
サントリーの水へのこだわりは、
企業の根幹をなしている。
確かに、良質な水なくしては、
サントリーの事業は立ちゆかないのだろう。
その水を守るために、
水源地の森を守るという自然な流れが生まれたことは、
納得ができる。
言い訳みたいな企業の環境活動とは志が違うようだ。
それは、山田さんの本『ゴチソウ山』を読めばわかる。
この本は、小説の体裁はとっているが、
山田さんが考える環境活動のあるべき姿勢を
表明している。
実際に「天然水の森」の活動から得た知見も
随所に盛り込まれているのだろう。
自然の恵みを活かすことが
いかに暮らしを豊かにしていくのかを
わかりやすく教えてくれる。
「天然水の森」は、
全国にあるサントリーの工場の水源地を中心に、
2011年までに約7000haに
広げることを目標にしている。
今回、訪れた「天然水の森 奥多摩」は、
府中にあるビール工場の
水源涵養エリアの一部にあたり、
この4月から活動がはじまった。
この日は、
東京農業大学の先生ふたりも合流し、
今後の活動の方針について、
山田さんらと実際の森の状態を見ながら議論していた。
この森の特質を考え、どうするかを決めていくのだ。
森の水源涵養の力を高めるために
放置されたままの人工林の間伐をすすめ、
より豊かな森とするために、
あらたな植栽の計画をたてていく。
この森からどのような活動がはじまるのか。
そして、東京の山と暮らしがどうつながっていくのか
興味はつきない。
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