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アホウドリのうた
高野 昭
元 日本鳥類保護連盟会員

アホウドリをうたった詩でよく知られているのは、ボードレールの「阿呆鳥」だろう。ボードレールは、この大きな白い鳥を高貴な魂を持つ詩人にたとえ、深い共感を寄せている。
1842年、20歳のボードレールは、西インド洋のモーリシャス島からフランスへ帰る途中の南大西洋で、船を追ってきて水夫につかまったアホウドリを見た。空を飛んでいるときは、あんなに優雅で美しいのに、甲板で水夫に追われると、大きな翼が邪魔になってヨチヨチ歩きしかできない不器用な鳥。ボードレールはそこに自分を重ね合わせ、詩人の不幸な運命に思いをはせる。こうしてフランス象徴派の代表作の一編が生まれた。
「阿呆鳥」の日本語訳は、明治以来、何人もの詩人たちによって試みられ、表記も信天翁、あほう鳥とさまざまだが、上田敏は沖の太夫と呼んでいる。現代風に意訳すれば海の美女。むかし山口県地方で使われたアホウドリの別名だそうだ。
イギリス文学ではロマン派詩人コールリッジの「老水夫の歌」にアホウドリが登場する。
帆船時代、船乗りたちはアホウドリを海で死んだ仲間の生まれ変わりと考え、殺せば崇があると信じていた。そのタブーを破った1人の水夫が、恐怖に満ちた贖罪の旅をつづけるという物語詩である。ここでアホウドリは悪に対する聖、罪に対する信仰を象徴するといわれる。この作品を題材にしたドレの絵も、アホウドリの死体を首にかけた老水夫が嵐の船上で苦しむ姿を描いていて印象的だ。
残念なことに、日本ではアホウドリの詩歌はなかなか見つからない。ただ河井酔茗の散文詩「鳥柱」が、南の海に立つ白い巨大な雪のような鳥柱をうたって、かつての鳥島の面影をしのばせる。鳥島に何万、何10万のアホウドリがいたころ、彼らが一斉に飛び立つと、その鳥柱で島そのものが浮き上がるように見えたという。