SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年9月30日

#449 マーク ベークウェル 『これまでの経験をどうやってチームに織り交ぜていけるか』

コーチキャリアが20年を超えるマーク・ベークウェルコーチ。色々な国での色々な立場でのコーチ経験が豊富なベークウェルコーチが、今シーズンのサンゴリアスで目指していることは何でしょうか?本コーナー初登場、ベークウェルコーチの人となりに迫ります。(取材日:2015年8月18日)

◆05年にスポットコーチとしてサントリーに

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—— SPIRITS of SUNGOLIATHに初登場です。まずは生い立ちから教えてください

私はニュージーランドで生まれて、4歳からラグビーを始めました。両親もニュージーランド人ですが、私が7歳の時にオーストラリアに引っ越しをして、1996年にオーストラリアの市民権を得ました。

コーチを始めたのは1995年で、その時はフォワードコーチと、ストレングス&コンディショニングの両方のコーチをしていました。そして1996年に当時のワラビーズ(オーストラリア代表)でコーチをしていたグレイグ・スミスが、私をストレングス&コンディショニングコーチとしてワラビーズに呼んでくれました。

1995年~1999年まではフォワードコーチとストレングス&コンディショニングコーチの両方をやっていて、2000年にはイースタンサバーブスというチームでヘッドコーチをやりました。そして、その年にはニューサウスウェールズの「コーチ・オブ・ザ・イヤー」を頂きました。

2001年にはブリーヴというフランスのチームでヘッドコーチを務めました。1999年のラグビーワールドカップでワラビーズが優勝したことにより、オーストラリア人コーチの需要が高まっていたんです。そのためブリーヴはオーストラリア人コーチを探していて、チームをファースト・ディビジョンに昇格させるため、私に声が掛かったんです。そして、その年、チームはファースト・ディビジョンに昇格しました。

その後、ビジエフというチームで2年間フォワードとディフェンスコーチをやりました。2年間のうち、最後の6ヶ月間はヘッドコーチもやりました。

2006年からはイングランドのバースというチームで、3年間フォワードコーチをやり、2010年にはオーストラリアのレベルズに行き、長女が学校を卒業するまではオーストラリアにいました。その後、2012-2013のシーズンはトンガ代表のフォワードコーチをやり、2013年には日本代表とも試合をしました。

2014年にサントリーに入りました。実は2005年の時にスポットコーチとしてサントリーには来たことがあって、その時から強いカルチャーがあり、素晴らしいクラブだと知っていました。

◆オーストラリア、トンガ、イングランド、フランス、日本

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—— コーチ業の面白さはどこですか?

コーチとしては、どの国のチームで、そのチームがどういうチームかということを理解しなければいけません。私はオーストラリアやトンガ、イングランドやフランスでもコーチをしたことがあり、そして今は日本でコーチをしています。その中でもサントリーというチームは、カルチャーやスタイルが強く根付いているチームだと思います。

自分のコーチングやこれまでの経験を、チームのカルチャーやスタイルの中に、どうやって織り交ぜていけるかという部分が、コーチとして一番面白いところです。ひとつの国でしかコーチをしたことがない人の考えを聞いたことがあるんですが、立場や視点が決まってしまっていて、違う形で物事を見られない人が多いと感じます。

—— ベークウェルコーチが言うカルチャーとは、その国の文化ですか?それともそのチームの文化ですか?

どちらもです。イングランドの人たちには、歴史的な部分で保守的な文化があると思います。その影響で、ひとつのものをまとめ上げてから前に進んでいくというイメージがあります。チームとしてもその傾向があり、フォワードでしっかりと作り上げてから、バックスを使って幅を持たせていくようなスタイルが多いと思います。

フランスは個を大事に考えている人が多く、15人ががっちり噛み合うか、全く噛み合わないかのどちらかになってしまうと思います。フランスは良い時と悪い時の差が激しい印象を受けますが、イングランドは逆に浮き沈みがないと思います。

ニュージーランドとオーストラリアは似ているところがあって、どちらも他の国と比べると歴史が短いので、「試してみよう」「やってみよう」という文化があります。そこで上手くいかなかったとしたら、次を考えて取り組んでいくんです。

日本の文化は、上下関係がしっかりしていて、キャプテンやバイスキャプテン、ゲームリーダーがいて、コーチとも強い絆があり、それに対して他の選手たちがついていくという形だと思います。

—— トンガの文化はどうですか?

凄く良い文化を持っていると思います。宗教的な考えを持っている国なので、感情的な部分でも深い考えがある人たちだと思います。それに力も強いですし、スイッチのオンとオフが激しいと思います。練習の時にはみんなで笑い合ったり、緊張感に欠けるような時があるんですが、試合の時にはどのチームも出来ないようなラグビーをする時があるんです。練習の時からスイッチの切り替えが激しいので、とても面白いチームだと思いますし、とても良い経験が出来たと思っています。

◆みんなが見ている絵に繋がるように

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—— ベークウェルコーチ自身も、ニュージーランドやオーストラリアのチャレンジする文化を持っていますか?

日本人は労働意欲が高い人たちなので、そこを尊重しています。ニュージーランドやオーストラリアは、誰でも昔からラグビーに親しみを持っていますが、日本にはまだその文化はないと思います。

ラグビーを自然と始められる環境があれば、長いラグビーのキャリアの中で、たくさんのことにチャレンジしたり、何かを変えたりするという経験を積むことが出来ます。そうすれば、何かを変えることは凄く簡単になります。

極端な例えですが、18歳からラグビーを始めた場合、人間としては既にある程度成長している年齢であり、チャレンジと変化を繰り返すには時間的に難しくなってしまうと思います。 私自身としても何か違うことにチャレンジするのは良いことだと思いますし、逆の意味でも変えなければいけない時もあると思います。多くの経験を積むことによって選択肢が増えるので、一番良い選択をすることが出来ると思います。

ただ、何かを変える上で考えることは、この変化によって機能しなくなることが起きないかということです。昨シーズンはテクニックの部分で多くのことをプラスしようとして、上手くいかなかった部分もありました。今シーズンはシンプルなものにこだわって、とことん突き詰めて取り組むようにして、それが選手たちにも合っていると感じています。

日本人選手は一生懸命取り組んでくれるんです。ただ、そこでメッセージが多すぎると、ゴールが見えにくくなってしまい上手くたどり着けなくなってしまいます。そこのバランスが、特に日本では大事だと気づきました。

—— 今シーズン取り組んでいるシンプルなことを、言える範囲でお願いします

メインでフォーカスすることを伝えるようにしています。サントリーはNo.1のアタッキングチームであり、No.1のファイティングスピリッツのチームでなければいけません。そこがベースにあり、そのために各パートで何をすべきかということです。例えば、スクラムではここに力を入れて取り組むということを明確にして選手に伝えるようにしています。それぞれの選手で伸ばさなければいけないポイントは、もちろんありますが、そのポイントを伸ばすことが、みんなが見ている絵に繋がるようにしていかなければいけないんです。

◆ファイナルまで勝ち上がり家族に見に来てもらう

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—— 選手時代のポジションは?

最初はルースヘッドプロップです。その後、ラグビーリーグでプレーしましたが、怪我をしてしまいラグビーに戻りました。ただ、怪我の影響でフロントローが出来なかったので、15kgくらい体重を落としてフランカーをやったんです。

選手としては1993年に引退をして、1994年に1人目の子供が生まれたので、1年間は子供のために休みました。そして1995年からコーチとしての人生をスタートさせました。

—— 日本で好きな食べ物は?

野菜と果物を多く食べています。昔は肉もたくさん食べていましたが、今は食べる量を減らしています。サントリーのクラブハウスの食事は、栄養士がしっかりと管理してくれていていますし、どの食事も本当に美味しいです。

日本が本当に大好きですが、辛いことは家族が一緒にいないことで、妻と子供3人はシドニーで暮らしています。子供は一番上が20歳で女の子、真ん中が18歳で男の子、一番下が16歳で女の子です。息子は学校でラグビーをやっていて、娘たちは2人ともネットボールをやっています。

—— 家族が日本に来ることはありますか?

妻はフルタイムで働いていますし、息子も学校が最後の年なので、難しいと思います。望んでいることとしては、サントリーがファイナルまで勝ち上がり、その試合を家族に見に来てもらうことです。

—— 今シーズンのコーチとしての目標は?

サントリーを日本でNo.1のセットピースに成長させたいと思っていて、それが出来れば、しっかりとしたチームの基盤が出来ると思っています。それがフォワードコーチとしての役割だと思います。

そのためには、個人を成長させていくと共に、全選手が同じ絵を見えるようにしていかなければいけません。これは絶対にやらなければいけないことで、そこが一番重要なんです。

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(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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