SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年5月20日

#430 村田 大志 『仕事でもラグビーでも大事なこと』

サンゴリアスではチームの中心選手として、会社では伸び盛りの若手として、大きな期待を背負っている村田大志選手。昨シーズン考えたことを、そして今シーズンにかけての思いを、仕事の面も含めて訊きました。(取材日:2015年5月7日)

◆苦しいシーズン

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—— 村田選手にとって、昨シーズンはどんなシーズンでしたか?

サントリーで戦った4年間の中で、一番苦しかったシーズンでした。それは結果が出ないというところが一番大きいところで、その結果を出すためにどうすればいいのかが、最後まで定まらなかったと思います。その中で、自分がチームに対して出来ることが少なくて、もどかしい想いを感じていて苦しかったですね。

トップリーグで初めてベスト4に入れずに、そこから選手主導でまとまったという意味では、今までにない新しいサントリーの形ではあったと思います。ただし、今シーズンに関しては、シーズンを通してチーム全体でまとまっていけるようにしていかなければいけないと考えています。

—— シーズンを通して、選手が中心となってチームをまとめていく形もあると思いますか?

それは無理だと思います。昨シーズンのワイルドカードから日本選手権までの6週間だけでも相当疲れましたし、リーダーであったシニアメンバーは想像できないくらい疲れていたと思います。

—— 個人として成長できた部分はどこでしたか?

フィジカル的な部分では、思ったように体が動かなくて、アグレッシブにプレーするという部分ではあまりチームに貢献できなかったと思います。その中で、シーズンの途中からは周りを見ながらバランスを取る役割を心掛けてやっていて、アタックよりもディフェンスで空いているところを埋めるようなプレーが多くなっていたので、チームスタイルに対してフィットできていなかったかもしれません。

苦しいシーズンの中で「どうすれば上手くいくか」と考える時間がすごく多くて、チームのことを考える時間を多く持つことが出来たので、精神的な部分で成長することが出来たと思います。

—— それがどうプレーに表れていたんですか?

バックスはかなり若返って僕よりも若いメンバーの方が多くて、そういう部分も含めて、声を出したり、密にコミュニケーションを取ったりしていました。

◆無意識の動き

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—— 今シーズンに向けての課題は?

昨シーズンは個人にフォーカスする時間が少なかったと思います。日本代表に帯同させてもらった時間もありましたし、個人にフォーカスする前にチームに戻って、そのままシーズンインしました。今シーズンは、個人的なプレーの部分ではもっと自分にフォーカスして、自分の能力を上げられるようにしていきたいと思っています。スピードや細かいステップなどのアタック部分にフォーカスしてやりたいですね。

—— 一昨年のシーズンと比べて、昨シーズンは停滞していた感覚ですか?

いや、一昨年のシーズンも停滞していた感覚で、3年前のシーズンは、チームの状態が良かったこともありますが、自分の中でも自分の動かしたい方向に身体が動かせる感覚がありました。

3年前のシーズン後に怪我をしてしまい、なかなか感覚が戻ってこなかったんですが、昨シーズンになってやっと馴染んできた感覚が出てきました。診てもらった先生にも「1年でプレーは出来るけれど、馴染むまでには2年くらいかかるよ」と言われていたので、その通りだったと思います。

—— 馴染んだということは、その個所を意識しないでプレーが出来るようになったということですか?

やっとそういう感覚になってきました。以前までは意識して動かしていた部分が、やっと無意識の動きが出来るようになってくると思います。怪我をした当初は、ここまで大変だとは思いませんでした。

今シーズンはもっとチームにフィットしたいという気持ちが強くあります。チームから求められていることが出来るようなプレーをしていきたいと思います。

—— 今シーズンはワールドカップの影響でトップリーグの開幕が遅くなりそうですね

そのため、自分にフォーカスする時間があると思っています。自分の調子を見ながら、能力を引き上げていきたいと思います。個々の能力を上げていくことがチームにとって大事なことだと思いますし、個人の力を上げられればチームの力にもなると思っています。

—— チーム全体を考えた時に、昨シーズンを踏まえ、今のチームの課題は何だと思いますか?

まずは「こういうチームになりたい」という共通のビジョンをみんなで持って、1年間継続して進んでいくことが大事だと思います。昨シーズンは色々な良い所を取り入れた結果、チームの軸がブレてしまったと感じました。まずはみんなで同じイメージを共有して、そこに向かって少しずつ積み上げていければと思います。

—— みんなで1つのものを作っていくことは大変なことですよね

他の選手がどう考えているかは分かりませんが、僕個人としては、サンゴリアスにはこれまで積み上げてきたアグレッシブ・アタッキング・ラグビーという土台があるので、何かを変えていくというよりも、その土台に良いものをどんどん肉付けしていくイメージを持っています。

若い選手は、もしかしたらまだアグレッシブ・アタッキング・ラグビーをしっかりと理解できていないのかなと思う部分もありますが、それは僕らの責任でもあると思います。ゼロからチームを作り上げるのではなく、どんどん改善していければと思っています。

—— 前監督の大久保直弥監督が今シーズンからNTTコミュニケーションズのコーチになりましたね

面白いなと思いましたよ(笑)。ただ、その決断は、やっぱり直弥さんの「もっと成長したい」という姿勢だと思います。直弥さんが別のチームに移るからといって嫌いになるわけではないですし、逆にグラウンドで会えるのは嬉しいです。直弥さんも成長しようと学んでいるところだと思いますし、そういう姿勢は凄いと思います。

◆チームからの信頼

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—— 今シーズンはどう成長していこうとイメージしていますか?

この時期は痛めている部分をしっかりと回復させて、しっかりと基礎的な身体作りをやっていこうと思っています。そして、昨シーズンはスピードが上がってこなかったので、スピードを上げることにフォーカスしたいと思います。

—— スピードを上げていくのは、トップリーグ開幕に合わせてですか?

夏頃までには仕上げたいと思っています。春シーズンはスピードを上げつつ身体を大きくして、プレシーズンまでにはいつでも試合が出来る状態にしなければいけないと思います。

—— ポジションはどこでプレーしたいと考えていますか?

13番にチャレンジしたいですね。マツ(松島幸太郎)も良いと思いますが、僕の持ち味が出るのは13番だと思うので、マツと競りながらやれたら面白いかなと思っています。ウイングの選手はスピードで勝負をして取り切れる選手がやるべきポジションだと思います。昨シーズン、ウイングをやらせてもらって思うことは、ディフェンスについては他のウイングの選手よりも良かったと思いますが、アタックではあまりトライを取れなかったですし、相手の脅威になれていなかったと僕自身感じていました。

—— 何シーズンにも渡り活躍し続けるためには何が必要だと思いますか?

シーズン途中のラグビーと終盤のラグビーは、同じことをやっていても全く別のものだと思っています。そこで重要視されているのは、チームからの信頼だと思います。昨シーズン終盤で言えば、日本選手権からヤスさん(長友泰憲)がメンバーに入ったのは、それまでほとんど試合に出ていなくても、これまで積み上げてきた信頼によるものだと思いますし、そこでしっかりと結果を残すことで次に繋がっていくと思います。

ツル(中靏隆彰)もそのことは自覚していると思いますし、そこを乗り越えなければいけないと思っていると思うので、今シーズンは更に良くなると思います。あと健太(塚本)も能力は凄く高いと思うんですが、剛さん(有賀)との明らかな違いはチームからの信頼と経験だと思います。健太も日本選手権決勝でその部分は感じたと思いますし、色んな意味で変われるチャンスを持っていると思います。いつまでもベテラン選手に頼るんじゃなくて、僕も含めてどんどんチャレンジしていかなければいけないと思います。

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◆少し贅沢なビール

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—— 仕事ではどういうことをやっているんですか?

スーパーマーケットのチェーンを3チェーン担当していて、そこに対して毎月、新しい商品やその告知方法などを提案して、サントリーの商品をお客様にどれだけ手に取っていただけるかということを、お店の人と一緒に考えて、行っていけるかという仕事をしています。

例えば、父の日が近い時期であれば、「いつもとは違う少し贅沢なビールをプレゼントしませんか?」ということをお店側からお客様に告知してもらったり、それに合わせて売り場を作ってもらうような提案をしたりしています。

お店側の人はバイヤーさんと言って、その人が色々なメーカーさんと話をしていて、その人にアポイントメントを取って、商談をしています。やはりそこでも信頼関係がとても大切で、しっかりと信頼関係が築けていれば、色々な話がスムーズに進むと思います。ただ、長く付き合いがあるから良いかという訳ではなくて、新人であってもこれまでにない新しい発想を伝えることが出来る部分もあると思います。

—— ラグビーと共通する部分はありますか?

僕が担当しているところで言うと、本当に人間関係を大事にしてくれていて、僕のことを気に入ってくれて、それで「お前が言うんだったらやろう」と言ってくれたりします。人間関係を作っていくということは、仕事でもラグビーでも大事なことだと思います。

その上で大切にしていることは、言われたことはすぐにやるようにしています。相手に「電話をしたのに、いつまでも電話をかけてこない」とか、「前に言ったことはどうなっているのか」と思われていたのでは、いつまで経っても信頼はしてもらえないと思います。

—— ラグビーをやりながらだと大変ですよね

それは事前に「この時期はラグビーのシーズンです」とか「これから練習に行きます」とかを言っておけば、電話に出られないことも理解してもらえると思います。理解してもらえない時もありますが、ラグビーをしていることは僕の事情で、取引先には関係のないことでもあるので、そういう中で信頼関係を築いていかなければいけないと思います。

—— 仕事で上手くいったと思うことはありましたか?

今はチェーンを担当していますが、3年前は店舗を担当していて、その時に「今度、優勝したら、店のこの売り場を任せる」と言われたことがあって、実際に優勝したので、大きな角瓶の売り場を作らせてもらったことがありました。そしたら、その売り場がサントリー社内のディスプレイコンテストで優勝することが出来たんです。そのお店はスーパーではなくてお酒の専門店だったんですが、その売り場が首都圏の中でグランプリに輝いて、ちょうど僕が担当を変わる直前だったので、良い置き土産になったと思います(笑)。お店の人からは「グランプリまで取ってくれたんだから担当変わらないでよ」と言われて、その言葉は嬉しかったですね。

◆ジムビームのシトラスハイボール

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—— 今は3チェーンを担当していて、毎日その担当するチェーンに行っているんですか?

毎日ではなくて、それぞれのチェーンにバイヤーさんがいて、あと各チェーンに商品を入れてくれる卸さんがいるので、その方たちと連絡を取り合って、必要があれば行くという感じです。

簡単に言うと、バイヤーさんから「何々を何ケース」と言われたら、卸さんには「何々を何日に何ケース入れても良いですか」という確認を取って、卸さんから了承を得たら、「何日にお店に入れてください」というやり取りをするんです。

あと、チェーンによっては、直接バイヤーさんと商談をしてはいけないチェーンもあります。そういう場合は卸さんと商談することになるので、「こういう商品があるんですが、お店にこういう提案をしてもらえませんか?」とか「こういうことをやりたいので提案してもらえませんか?」ということを卸さんとやり取りをしたりします。

—— 信頼関係以外に大切にしていることはありますか?

企画力も大事になると思いますが、僕はまだ力不足かもしれません。他の社員の方と比べると、企画力や知識が少ないので、今はその分、取引先に気に入られるようにして、先方から「こういうことは出来ないか」という話をもらい、その方法を提案するようにしています。その方法が良いとは思いませんが、何もないよりは良いとは思っています。

—— サントリーの社員だから知っている、ドリンクの美味しい飲み方などはあるんですか?

最近のお勧めは、ジムビームのシトラスハイボールという飲み方があって、それは美味しいと思いますよ。ハイボールは普通、レモンなどを入れて飲むんですが、オレンジやグレープフルーツなどの柑橘系のフルーツを入れて飲むんです。その飲み方は、ジャパニーズ・ウイスキーよりも、ジムビームなどが合うと思います。スッキリとしたノド越しで飲みたい人にはお勧めです。

—— 仕事での目標は?

売上が好調なチェーン店よりも、伸び悩んでいるチェーン店の方が気になっていて、そういうチェーン店は提案してもなかなか話が進まない状況になったりします。そういうチェーン店に対して、新しい切り口で提案していき、その提案で売上が好調になっていくことを目標にしています。

そのために、出来る限り取引先の方と会う機会を増やしていきたいと思っています。なかなか会うことが難しいんですが、お店のレイアウト変えをするタイミングがあって、1ヶ月~2ヶ月くらいをかけて、みんなで各店舗を回るんです。そういうタイミングで可能な限りお店に顔を出して、一緒にお店を作っていきたいということをアピールしていきたいと思います。

◆勝った日のお酒

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—— お酒を扱う仕事をしていて、シーズン中にも飲むことがあるんですか?

基本的には平日は飲まないようにして、飲んだとしても週末だけにしています。試合があった日の夜に、みんなで飲むということはあります。試合に勝った日のお酒は格別に美味しいですね(笑)。けれど、負けたとしても、お酒を飲んでいない状態では言えないようなことも面と向かって話せるようになったり、本音を言えるようになると思います。それはラグビーに限ったことではないと思いますし、後輩が先輩に思っていることを言えるようになるきっかけが出来ると思います。

—— タイトルを取っていたシーズンと取れなかったシーズンでは、お酒の場で話す内容も違いましたか?

確かに、タイトルを取っていないシーズンでは、そういう場でもネガティブなコメントが多かったような気がします。「もっとこうした方が良い」ではなくて、「なぜこうなんだ」という話が多かったと思います。そういうところからも変えていけるかもしれないですね。

僕が1年目の時は、試合後にみんなで飲む機会が多かったように思います。その当時は、正直、行きたくないという気持ちもありましたが、いま振り返ると、そういう機会があって良かったと思います。

—— 将来的な仕事の目標はありますか?

引退してもサントリーで働きたいという気持ちがあります。ラグビーをやらせてもらっていることや応援してもらっていることに対して、会社には本当に感謝していますし、恩返しをしていきたいと思っています。

引退後も営業の仕事をすると思いますし、業務用といって、飲食店さんを相手に仕事をする営業もあります。僕はこれまでスーパーマーケットに対しての営業をやってきていますが、他の営業にも興味があります。

—— 村田選手がいる西東京支店にはラグビー部員が多いですよね。それだけ応援してくれているんですか?

赤坂や横浜にも支店があって、そこで働いている選手の話を聞くと、どの支店もラグビー部のことを応援してくれているんですが、西東京支店は特に熱く応援してくれていると感じます。全国どこにでも試応援に来てくれる方がいたり、練習試合の時も応援に来てくれることも多いです。本当に嬉しいですね。

西東京支店はOBも多くて、まず支店長がOBなんです。今の支店長が栗原さん(誠治)で、その前の支店長が金澤さん(聡)でした。金澤さんはラグビー部が創部された時のメンバーだったと思います。それに稲垣さん(純一)も、土田さん(雅人)さんも西東京の支店長を務められていました。OBで言えば、早野貴大さんや澤木智之さん、木下博史もいるので、本当にラグビー部が多いと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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