SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年10月17日

#300 芦田 一顕 SOS9人目 『勇気は常に必要』

過去から現在まで、個性的な面々の顔が思い浮かぶサンゴリアスのスクラムハーフの中にあって、異色のように大人しく見えるスクラムハーフでありながら、早くもトップリーグデビューを果たしたルーキーの芦田一顕選手。優しい笑顔の内に秘めるスピリットに迫りました。

◆試合に向けての準備が違う

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—— 第2節の九州電力戦で初めてリザーブメンバーに入った時はどうでしたか?

もともとはリザリザ(リザーブのリザーブ)で、フーリー(デュプレア)の腰の調子があまり良くない状況だったのですが、試合当日になっても状況が良くならず、急遽リザーブに入ることになりました。結局、その試合には出場出来ませんでしたが、試合が終わるまでベンチでずっと緊張していました。

第4節のキヤノン戦では、初めからリザーブメンバーとして選んでもらい、「今度こそ絶対に試合に出たい」という思いはありましたが、試合が進んでいって残り10分を切った辺りからは「今日も出番はないかな」と思い始めていました。でも、そこから出番がやってきました。

出場時間は8分間くらいでしたが、楽しい時間でした。めちゃくちゃ緊張しましたが、貴重な経験をさせていただいたと思っています。試合直後は、あまりプレーのことは覚えていなかったんですが、ビデオを見て1人で反省会をしました。

—— どこが反省点でしたか?

動きが硬くて、出場してすぐにディフェンスの場面で抜かれてしまいました。

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—— 今シーズンの新人の中で3人目のトップリーグデビューでしたが、トップリーグに出場出来たのはどこが評価されてのことだと思いますか?

怪我をせずに、ずっと練習に参加していたことが一番大きいと思います。

—— 大学と比べて社会人のラグビーはどうですか?

まずは試合に向けての準備が違います。僕は他の大学を知りませんが、大学時代は試合だからといって、そこまで集中して準備をしていませんでした。サントリーでは、メンバーに選ばれた選手は試合前日にホテルに集まって、試合の何時間も前から、メンバー同士で行動を共にします。その分、試合に向けて良い準備が出来ていると思います。

あと試合の3日前くらいになると、ミーティングの回数が増えていきます。ミーティングをすることによって意思統一も図れますし、万全の状態で試合に臨める環境があると思います。

—— 第5節の近鉄ライナーズ戦ではメンバーには選ばれませんでした

今の実力では、フーリーの状態によってメンバーに選ばれるかどうかが決まると思います。ただ今は、その位置をしっかりとキープしたいと思っています。上にいる人たちを抜いてやりたいという気持ちはありますが、いきなりフーリーを追い越すことはできないですし、まずはチームに信頼されなければメンバーには選んでもらえないと思うので、少しずつステップアップしていきたいと思います。

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—— サンゴリアスの歴代のスクラムハーフを見ていると、個性的なメンバーが多いと感じますが、芦田選手はまだ大人しいように見えます。自分自身ではどう感じますか?

大学の時は、先輩も後輩もスクラムハーフの人は個性的だと思っていましたが、自分のことを個性的と思ったことはないですね。

—— 負けず嫌いですか?

負けず嫌いだと思います。体をぶつける練習で、相手がスクラムハーフじゃなくても、やられたらスイッチが入って、更にタックルに行きます。そういう負けず嫌いな部分はありますが、まだメンバーに入れないからといって、そこでスイッチが入ることはありません。たぶん、それはまだ自分のプレーに自信を持っていないということと、今の自分がトップリーグで通用すると思っていないからだと思います。

—— 通用するプレーヤーになるには、どのくらいの時間が必要だと思いますか?

まだフーリーと日和佐さんから教えてもらっている状態で、今シーズンはしっかりと学んで、来シーズンはチームに信頼される選手になっていないとダメだと思っています。

◆走ったり仕掛けたりすることが好き

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—— ポジションはずっとスクラムハーフですか?

高校からはずっとスクラムハーフで、中学の時はウイングとフルバックをやっていました。当時から体が小さかったので、高校では自然とスクラムハーフをやっていました。

—— ウイングやフルバックと比べて、スクラムハーフはどうでしたか?

最初は自分でボールを持って走れなかったので、面白くなかったですね(笑)。けれど、高校でスクラムハーフをやっているうちに、面白いと感じるようになりました。

—— ウイングやフルバックをやっていた選手がスクラムハーフをやると、自分で持ちすぎるということはありませんか?

高校の時は1つ上の先輩がすごく怖くて、自分で走らずパスしかしていませんでした。大学の時は少し自由にプレーが出来るようになって、自分でボールを持って走るプレーが増えていたと思います。

—— スクラムハーフの面白さはどこですか?

僕は辛いことが嫌いじゃなくて、辛い中でも上手くいって、それがトライに繋がったら嬉しいですし、ポジション的にも自由に動けるところが面白いですね。

—— 自分自身を評価すると、どういうスクラムハーフだと思いますか?

自分でボールを持って走ったり、仕掛けたりすることが好きなんですが、社会人になってそういうプレーがまだ出来ていません。プレー中はスタンドオフの声を聞くことやフォワードとの連携などで精一杯で、まだ余裕がないと思います。

—— スクラムハーフの大変さは何ですか?

サントリーは特にスクラムハーフが鍵になっていますし、常にボールを追いかけてラックなどからすぐにボールを出せる状態にしないといけないので、体力的には大変です。

—— 体が小さい分、勇気が必要ですか?

体が小さいのに、大きい選手を倒したらカッコいいですよね。だから、どの場面で勇気が必要ということではなく、常に必要なことだと思います。

◆お客さんがグラウンドに入ってきてキャプテンが胴上げされた

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—— 芦田選手は関西学院大学出身で、西川征克選手や長野直樹選手と同じ大学ですね

関西大学Aリーグが10月7日に開幕して、開幕戦で天理大学に負けてしまいましたが、西川さんがいた頃が一番強かったと思います。僕が1年生の時に、西川さんは3年生で、その時には半世紀ぶりくらいに関西を制覇しました。けれど、その時でも全国ではベスト8止まりでした。

僕が1年生、2年生の時には関西を制覇しましたが、3年生の時は天理大学が強くて関西2位でした。そして、僕らの代では関西5位でした。今シーズンは、天理か関学(関西学院大学)かと言われていて、いきなり開幕戦で戦ったんですが、2点差(15-17)で負けてしまいました。今の関学は部員が150人くらいいて、良い選手が揃っていると思います。

—— 大学の時は何年生から試合に出ていたんですか?

1年生の時から試合に出させてもらっていました。高校の時は、3年生の時しか試合には出られませんでした。高校の時は、監督の言う通りのプレーしか出来なかったんですが、大学ではある程度自由にプレー出来るようになり、そこで試合にも出させてもらえるようになりました。

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—— お手本にしている選手はいますか?

恥ずかしい話なんですが、大学まではあまりラグビーを見たことがなかったんです。だから自分の感覚でプレーをしていました。大学が関東だったら、また違ったプレースタイルになっていたかもしれません。大学は関東に比べると、関西の方がレベルが低くなるので、そういった環境でラグビーをやったことで、自信をつけることが出来たんだと思います。

—— 大学ではキャプテンやバイス・キャプテンの経験はありますか?

これまでのラグビー人生で、キャプテンやバイス・キャプテンはやったことがありません。

—— 中学、高校、大学とラグビーで一番印象に残っていることは何ですか?

大学1年生の時の開幕戦です。いきなり試合に出させてもらって、同志社大学と試合をしました。当時の同志社大学には、4年生に宮本啓希さんもいたんですが、関学が半世紀ぶりに同志社大学に勝つことが出来ました。試合は花園第2グラウンドで行われたんですが、試合が終わった瞬間に、観客席からお客さんがグラウンド内に入ってきて、大変なことになったんです。それがすごく嬉しかったことを覚えています。その試合の内容とかではなく、その試合終了後のことがすごく印象的に残っています。

お客さんがグラウンドに入ってきて、キャプテンが胴上げされたり、みんなで抱き合ったりしていたので、優勝したかのような雰囲気でした。あの試合以上の感動は、これまで味わったことがありません。

—— 社会人でも同じような体験をするとしたら、どういうシーンだと思いますか?

まだあまりイメージは湧きませんが、高校でも大学でも日本一にはなったことがないので、社会人で日本一になった時は、同じような感動があると思います。その瞬間にグラウンドに立っていたいと思います。

◆不安よりも期待の方が大きかった

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—— 出身は?

大阪府交野市です。

—— これまで他にスポーツの経験は?

小学校の時に野球をやっていました。中学では、先輩に誘われてラグビーを始めて、それからはラグビーをやっています。野球は地元の少年野球チームでやっていて、ピッチャーやショートを守っていました。1番バッターで足が速い方でしたが、中学では野球を続けようとは思わずにラグビーを始めました。

—— 初めてラグビーをやってみて、どう感じましたか?

ルールは難しかったんですが、楕円球のボールが新鮮でしたし、体をぶつけたりするのが面白かったですね。他には、もともと走ることが好きで、野球と比べてラグビーはどこでも走れるところが面白かったんだと思います。

—— 小さい頃から走り回っていましたか?

小さい頃は、神社などで野球をやっていました(笑)。友達と駆けっこをすることが好きでした。だから、ラグビーを始めて、ウイングやフルバックをやることは楽しかったですね。

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—— スクラムハーフに転向することへの抵抗は?

チームのポジションの関係で、中学の終わりくらいからスクラムハーフをやっていましたし、高校ではしっかりとした指導を受けることが出来たので、抵抗はありませんでした。

—— ラグビーを続けようと思ったのはいつ頃ですか?

大学に入る前までは、社会人ではラグビーはやらないだろうと思っていましたが、大学の時に負け過ぎていて不完全燃焼という思いがあり、大学3年生くらいから社会人でもやりたいと思い始めていました。そんな時に、運よくサントリーから誘っていただきました。他のチームからも誘ってはいただいたんですが、「絶対にサントリーに入りたい」という思いがありました。

—— 日本一のチームに入る期待と不安はありましたか?

自分の力が通用するのかという不安はありましたが、不安よりも期待の方が大きかったんです。サントリーには、フーリーや日和佐さんというトップレベルのスクラムハーフがいますし、他にもトップレベルの選手がいて、今も毎日が充実しています。

—— 自分自身の性格は?

ラグビー以外に関しては面倒くさがりで、部屋も汚いんです。血液型はA型なんですが、あまり細かいことは気になりません。あとボーッとしていることが多いかもしれません(笑)。

—— ご家族は?

姉が2人います。歳が離れているので、子供の頃はよく泣かされていました。父親は特に何も言わないんですが、姉と母親が厳しかったですね。

—— お父さんはラグビーをやっていたんですか?

中学でラグビーをやっていて、高校ではレスリングをやっていました。あまり詳しい話をしないので分からないんですが、父親は日本体育大学でレスリングをやっていて、北京オリンピックとロンドンオリンピックではレスリングの審判をやりました。もともとは高校の教師をやっていて、ボランティアでレスリングの審判をやっているんです。

—— ロンドンオリンピックでお父さんが審判をやっている映像は見ましたか?

あまり映っていませんでした(笑)。それと、日本人選手の試合の審判はやらないので、どうしてもテレビでは取り上げられませんでした。

—— ロンドンオリンピックでは日本人の審判の方はあまり多くはないんじゃないですか?

2人だけだったみたいです。すごいと思います。

◆サントリーに必要とされる選手になる

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—— お父さんがラグビーの応援に来ることはありますか?

第5節の近鉄戦は花園での試合だったので、応援に来てくれました。第6節のトヨタ戦も応援に来てくれました。

—— アスリートの先輩として、アドバイスなどは受けましたか?

アドバイスは全くないですね。けれど、僕がラグビーをやっていることは嬉しいんだと思います。僕が初めてトップリーグの試合に出た時は、父親と姉からは何も連絡がありませんでしたが、母親からは「試合をテレビで見たよ」と連絡がありました。

僕の父親は少し変わっていて、普段はくだらないことばかり言って、何を考えているのか分からないんです(笑)。それに怒ったところを見たことがないですね。優しい父親なんですが、内容がない会話が多いと思います。

—— 今、感じるラグビーの面白さは何ですか?

新しいことをどんどん吸収出来ますし、成長していることが実感出来ていることが楽しいです。大学の時は無駄なことが多かったんですが、社会人になってからは、朝からラグビーの練習をして、仕事をしてから、またラグビーの練習をしているので、体は大変ですが、すごく充実感を感じています。

—— SOSについてはどう思いますか?

僕自身、まだトップリーグのレベルまで達していないことは自覚していて、もっと練習をしなければ、今トップチームでプレーしている選手が引退した時には、大変なことになるという危機感を持っています。

—— 忙しい生活の中で、気分転換の方法はありますか?

ラグビー部以外の同期とも仲が良くて、よく晩ご飯を食べに行ったりして気分転換をしています。そういう時は全くラグビーの話はせずに、仕事の話であったり、プライベートな話をして盛り上がっています。

—— 今シーズンの目標は?

1試合でも多く試合に出ることと、怪我をしないことです。長期的な目標としては、サントリーに必要とされる選手になることです。

—— ファンの人たちに見てほしいところはどこですか?

今は自分自身でも、自分の強みを探しているところなので、まだ偉そうにどこを見てほしいということは言えません。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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